どの様な仕組みで「痛み」を感じているのか?

「痛み」の“存在理由”とは?

私たちの体に、なぜ「痛み」という感覚が備わっているのでしょうか?

「痛み」それは、とても不快で本当につらいものです。
こんなにつらいものなら、いっそ、痛みを感じなくしてほしい!
そう思われることでしょう。

「痛み」という感覚がなかったら・・・
実は、その感覚がないまま産まれてくるヒトは実際に存在します。

「先天性無痛症」

生まれながらにして「痛覚神経」を持ち合わせていない疾患です。
ですから、「痛み」がどの様なものかも理解できません。
そして、残念ながら、あまり長くは生きられません。

「痛み」という感覚は、言葉を変えると「警告アラーム」、危険がせまっていることを知らせる重要な役割を担っています。

これが、切れていたらどうなるでしょうか?
想像するだけで、恐ろしくなるかもしれません。

医療の現場では、この機能を意図的に遮断することもできます。
しかし、時と場合により、その選択は難しいものになるでしょう。

ただ、いずれにせよ、「痛みの感覚」がどの様な仕組みなのか?
知識としてある程度知っている必要はあると思います。

痛みの仕組み

例えば、「足の裏が痛い」と感じたとき、この「痛い!」は脳が認識しています。
しかし、“足の裏”が痛いはずなのに、どうやって情報が脳にまで届いているのでしょう?

答えは「神経を使って情報を伝えている」です。

実に当たり前の回答です。
ですが、これはとても重要なことですので、後ほど詳しくご説明いたします。

では、この「神経」は、どのような仕組みで情報を脳まで伝えているのでしょう?

答えは“デンキ”を使っています。
“電気のコード”や“電話線”と同じ仕組みです。
つまり、足の裏にある神経の先端が痛みを感じ、そこで電気を発生させ軸索(電気コード)という場所を通って脳まで信号を伝えています。

神経は電気コードですから、そこに電気が流れると「痛い」と感じ、流れない時は「痛み」を感じません。
では、この電気コードを切断するとどうなるでしょうか?
当然、電気は流れません。
そして、情報も伝わりません。

つまり、神経は切れても「痛み」を感じる事はありません。
これも、当たり前の事です。
しかし、とても重要なことです。

ここで、一番お伝えしたいことは、神経は「情報を伝えているだけ」ということです。

神経の“種類”ついて

「神経」とひとくちにいいましても、いろいろな種類があり、ひとつの神経であれもこれも伝えているわけではなく、それぞれ専門に特化しています。

目の視神経は“光”だけに、耳の聴覚神経は“音”にだけ反応します。
同じように「痛み」は、「痛み専門の神経」だけが反応しています。

視神経に、大きな音を聞かせても反応しないのと同じように「痛み専門の神経」は「痛み」にしか反応しません。

さらに、神経の特性として、「全か無かの法則」というものがあります。
難しく聞こえますが、これはスイッチのON、OFFのみのことで、強弱は伝えることができません。
しかし、実際、私たちは痛みの強弱を感じています。
これは、“活動電位の発火頻度”が関係しています。
つまり、反応する頻度が高い時は強く感じ、少ない時は弱く感じるという仕組みになっています。

神経の“場所”について

視神経は目にあります。
聴覚神経は耳にあります。
では、「痛み専門の神経」はどこにあるのでしょうか?
体中のどこにでもあるように思われるかもしれません。
しかし、実は、特定の場所にしかありません。

「痛み専門の神経」のある場所をご説明する前に、この神経がない場所についてお話しいたします。

 「痛み専門の神経」がないところ

まず、爪(つめ)です。
私たちは、日常的に、特に意識することなく切っていますが、これらは腕や足と同じ体の一部です。
しかし、切っても痛みを感じません。
その他に、骨・軟骨・椎間板などにも「痛み専門の神経」はありません。

つまり、骨折したとしても、膝や股関節の軟骨がすり減っていたとしても痛みは感じないはずです。
そして、椎間板もしかりで、減ったり、変形したり、つぶれたりしても痛くないはずです。

にわかに、信じられないかもしれません。

でも、「骨折すると痛いじゃないか!」と思われたことでしょう。
私も3回ほど骨折し、とても痛かったことを覚えています。
これは、一体どういうことでしょうか?
通常、骨折すると痛みをともないます。
では、あの「痛み」はどこから来るのでしょう。
実は、「骨」が痛みを感じているのではなく、骨折により、周りの筋肉、腱、靭帯、膜が傷ついて「痛み」を感じているのです。

では、軟骨はどうでしょう?
プロ野球のピッチャーは、激しい投球トレーニングにより肩の軟骨がスリ減っていることをご存じでしょうか?
投球時に近くで聞くと、ゴリゴリとすごい音が鳴っています。
それでも、150キロの豪速球を投げられるということは・・・。

テレビや、雑誌で

「膝が痛いのは、軟骨がスリ減っているからだと言われています!」
というセリフが数年前まで使われていました。
しかし、最近は聞かなくなったと思います。

軟骨がスリ減ることと、痛みとは関連がないことを示唆している例をご紹介しました。

ここで、お伝えしたい重要な事は、
骨が・・・
軟骨が・・・
椎間板が・・・
と言われても、痛みの原因ではないということです。

「痛み専門の神経」があるところ

では、「痛みを感じる神経は」どこにあるのでしょうか?
それは、筋肉・腱・靭帯・膜(脳や内臓に関するものも含む)など、からだの中で“伸び縮みするところ”にあります。
ですから、「痛み」は、この筋肉・腱・靭帯・膜で、何かしらの異常があることを知らせています。
そして、厄介なことに、筋肉・腱・靭帯・膜は、レントゲンやMRIで異常を見つけるのは、とても困難なところだということです。

どのような異常がおこっているのか?

では、筋肉・腱・靭帯・膜で何がおこっているのかを、詳しくご説明いたします。

体には、動脈と静脈という2種類の血管があり動脈の血液を動脈血、静脈は静脈血といいます。
動脈血は、体の各細胞に酸素や栄養を届けています。
そして、静脈血は、老廃物や二酸化炭素などを運んでいます。

細胞に十分な酸素が届かなくなると『酸欠状態』になり、その細胞は死んでしまいます。
これを防ぐために“警告アラーム”として「痛み」という感覚を使い脳に知らせます。
意外に単純だと思われたかもしれませんが、このような仕組みで痛みを感じているとご理解ください。

「痛みの種類」について

痛みの種類は、大きく分けて3つです。

1、切創や打撲、捻挫などの外傷(ケガによる痛み)
2、筋肉を筋力以上に動かした時の痛み(運動による筋肉痛)
3、特別、何かした訳でもないのに痛む(慢性的な痛み)

このように分けましたが、基本的に痛くなる原理は同じです。
それでは、ひとつひとつ見ていきましょう。
 
1、切創や打撲、捻挫などの外傷(ケガによる痛み)
切創や打撲、捻挫は、いずれも血管(毛細血管等)が切れてしまいます。
すると、その周辺の細胞の血液供給が止まり酸欠になり痛みを感じます。
そして、切れた血管が修復されるまで痛みはおさまりません。

2、筋肉を筋力以上に動かした時の痛み(運動による筋肉痛)
ヒトは、筋肉を動かすとき、エネルギー源として酸素とグルコース (glucose:ブドウ糖) を使います。
日頃、あまり運動しないヒトが、突然、激しく筋肉を動かすような運動を行うと、酸素の供給が追いつかなくなってしまいます。
そのような事態の時は、筋肉に蓄えてるピルビン酸という物質が乳酸に変化します。
そして、この乳酸が酸素の代わりをして、筋肉は動き続けることができるのです。

通常、乳酸は役目が終わると、静脈から排出されます。
しかし、普段からあまり運動を行っていない筋肉では、排出が十分に行えずたまってしまいます。
そして、酸素の通り道である血管をふさいでしまい、酸欠状態になり痛みを感じます。
これが、いわゆる「筋肉痛」です。
たまった乳酸は通常、一週間程度で自然に排出されますから、時間とともに痛みはおさまります。
 
3、特別、何かした訳でもないのに痛む
これは、一般的に『慢性痛』と呼ばれるもので、医療現場で「なかなか治らない痛み」として扱われています。

実は、医師を含む医療に従事する人々は、上記でご説明したような「酸欠による痛み」の仕組みはほとんど教わりません。
痛みの仕組みについては“炎症”と教育されます。

炎症とは、ウイルスなど体外から影響を受けたものと、体の組織が何らかの原因で損傷を受けたものとされています。
しかし、ほとんどの慢性痛に“炎症反応”は起こっていません(炎症細胞も確認されていない)。
ゆえに、ほとんどの医療の現場では「痛み」として取り扱われることはありません。
そして、なぜ痛むのかさえわからないまま、「腰痛症」や「腱鞘炎」、「変形性股関節症」という診断名がつけられます。
治療としては、痛みをおさえるために痛み止めの薬やシップ、麻酔の注射をして、その場をしのいでいるのが現状です。

実際は、この『慢性痛』の場合も、細胞が「酸欠状態」になっているだけです。

何ヶ月も、何年も痛みを感じ続ける慢性痛の原因は?

感覚神経の先端には特殊なセンサーがあります。
それらを「受容器(じゅようき)」といい、それぞれ専門に特化した固有の形をしています。

そして、これらには次の4種類があります。

“痛み”を感じる神経(痛覚ニューロン)
“熱い”を感じる神経(温感受性ニューロン)
“冷たい”を感じる神経(冷感受性ニューロン)
“触れている”を感じる神経(触圧覚ニューロン)

痛みを感じる神経の受容器は、大きく分けると“自由神経終末”と“ポリモーダル侵害受容器”の2種類があり、特にポリモーダル侵害受容器は慢性痛と深い関わりがあります。

これらは、筋肉・腱・靭帯・膜など、からだの中で“伸び縮みするところ”に存在します。
この中で、痛みと深い関わりがあるのは筋肉です。
特に、筋線維と筋膜の間に痛覚受容器が多く存在し、これらが反応していると考えられます。

つまり、筋肉に何かが起こっているということです。

では、何が起こっているのでしょうか?

筋肉が緊張し硬くなっている。
ただ、それだけです。
硬いと言いましても、柔軟性のことではなく、触ってみて、軽く押してみて「硬いかどうか?」という意味です。
筋肉が硬くなるだけで、こんなにも痛くなるのか?と思われたかもしれません。
ですが、これ以外に理由はありません。

詳しくご説明いたします。
筋肉が緊張し硬くなることで、縮むチカラがはたらきます。
この、“縮むチカラ”により、筋肉の中を通っている血管を圧迫して細くしてしまいます。
こうなると、動脈血の流れが悪くなり、上記で説明したように、その筋肉などの細胞が「酸欠状態」となり、危険である事を「痛みの感覚」を使い脳に知らせています。

酸素が不足すると、細胞は“ブラジキニン”や“ヒスタミン”という『発痛物質』を放出します。
この発痛物質に“痛覚ニューロン(ポリモーダル侵害受容器)”が反応し、痛み、シビレ、重い、だるいなどの症状を呈します。

これが、慢性痛のメカニズムです。

この事は、標準生理学という医学部で学ぶテキストにも記述されています。

*********引用*********
筋の収縮によって痛みが起こる。
ーー中略ーー
筋の血流を止めると痛みが起こる。筋収縮時の代謝産物として発生する乳酸やカリウムイオン、セロトニン、ブラジキニン、ヒスタミンなどが過剰に蓄積して痛みを起こすとされている。
ーー中略ーー
血流改善が「こり」、「しびれ」や「痛み」の寛解とかかわっている。
*******引用ここまで*******

と、されています。

しかし、病院などの医療機関で、このような話しを聞く事はほとんどありません。

幸か不幸か、医学が発展してきた現代では、患者さんの体を医師が触れる事は、随分と少なくなりました。
レントゲン、CT、MRI等のキカイに頼る事が多くなり、本当の原因を見失っているのかもしれません。

のむら整骨院 院長 野村晃生のサイン