目と、顎と、後頭部【自律神経と回復力】第4回

この三つは、
周囲を警戒するための仕組みです。

ここまで、足元と呼吸の話を書いてきました。

重さが軸に落ちていないと、倒れないための立て直しが一日中続く。

胴体が詰まっていると、横隔膜が下まで降りられず、肩と首で息をすることになる。

どちらも、「まだ場面は終わっていない」という報告を、体から脳へ送り続けます。

今回は、三つめの場所です。

足元が収まり、息が下りるようになっても、まだ張り詰めたままの方がおられます。

そういうとき私が見るのは、頭のあたりです。

目、顎、後頭部。

この三つには、共通する役目があります。

見張るための場所

動物が身構えているとき、体はどうなるか。

まず、目を見開きます。

次に、歯を食いしばります。

そして、頭を持ち上げて周囲を確かめます。

これは、人間でも変わりません。

危ないと感じた瞬間、私たちは目を見開き、顎を締め、首の後ろを固めて頭を起こします。

誰にも教わらずにそうなります。

つまりこの三つは、周囲を警戒するための仕組みです。

そして、その仕組みには、都合の悪い性質があります。

危険が去っても、勝手には解けないことがあるのです。

短い危険なら、過ぎたあとに自然にゆるみます。

けれど、長く続く緊張——締め切りが何ヶ月も続く、気を張る相手と毎日会う、痛みが何年もある——そういう状況では、体はこの仕組みのスイッチを入れたままにしてしまいます。

なぜなら、入れたままのほうが効率がいいからです。

いちいち、切ったり入れたりするより、常時つけておくほうが早い。

そして、「常時」になったものは、意識にのぼらなくなります。

目は、体全体を巻き込む

三つのうち、影響がいちばん大きいのは目です。

目は見るための器官ですが、同時に体の向きを決める役目もあります。

目が向いた先へ、頭が向き、首が向き、体幹がついていく。

これは順番が固定されていて、逆にはなりません。

だから、目の使い方が偏ると、体全体が引っぱられます。

画面を見続けているときのことを考えてみてください。

ピントは一定の距離に固定されています。

視線はほとんど動きません。

目の周りの筋肉は、同じ形のまま何時間も固定されています。

そして、遠くを見ないまま一日が終わります。

体にとって、これは奇妙な状況です。

一点を凝視し続けるというのは、本来、何か特定のものを注視しているとき——つまり警戒しているときの目の使い方です。

安全なときの目は、そんなふうには使われません。

ゆるやかに広く、周辺まで入ってくる。

何かに焦点を合わせるのではなく、風景として受け取っている。

私は、この違いは体への報告として届いていると考えています。

視野が狭く固定されているあいだ、体は「見張っている最中」として扱いやすい。

顎は、「力の抜けなさ」の見張り台

顎は、少し役目が違います。

顎は、力の入れ方の癖がいちばん出やすい場所です。

重いものを持ち上げるとき、無意識に歯を食いしばる方は多いと思います。

パソコンで難しい作業をしているときも、集中していると顎が締まっています。

眠っているあいだに歯を噛みしめておられる方もいます。

顎に力が入るのは、単独の現象ではありません。

体が「今は力を出す場面だ」と判断しているときの、全身の構えの一部です。

だから顎は、指標になります。

顎に力が入っているなら、体はまだ構えを、力みを解いていません。

逆に、顎がゆるんでいるなら、体はある程度、力を手放しています。

自分の状態を確かめるのに、いちばん手っ取り早い場所です。

後頭部は、傾きを知らせる場所

三つめは、後頭部の下——首の後ろの、髪の生え際のあたりです。

ここには、頭がどちらに傾いているかを知らせる感覚が、とりわけ密に集まっています。

第2回で、足首の奥にも同じような感覚が密にあると書きました。

足元と後頭部。

体の上下の端に、傾きを知らせる場所が置かれているわけです。

そして体は、この二つから届く情報を突き合わせて、今の姿勢を把握しています。

ここが大事なところです。

足元でズレが起きていて、体が前に落ちかけているとき、頭は必ず起こされます。

前を見ないわけにはいきませんし、頭が落ちたままでは何もできません。

だから首の後ろが縮んで、頭を吊り上げます。

つまり、後頭部の張りは、たいてい足元の話です。

首を揉んでも戻る。

それは、そういう理由です。

首は原因ではなく、対応している側だからです。

(揉むこと自体の問題についてはこちらに書きました)

三つは、つながっている

ここまで別々に書きましたが、この三つは連動しています。

目を細めて画面に近づくと、頭が前に出ます。

頭が前に出れば、首の後ろが働いて頭を起こします。

首の後ろが固まると、顎の位置が変わり、噛み合わせが変わり、顎に力が入ります。

顎に力が入っていれば、体は構えを解きません。

どこから始まっても、残りの二つがついてきます。

そして三つが揃った状態は、体にとって完全に「見張っている最中」の姿です。

足元が収まっても、息が下りるようになっても、ここが解けていなければ、体はまだ警戒を解きません。

だから私は、この三つを最後に確かめます。

これも、医学的に確立した説明として申し上げているのではありません。

私が体を見てきた範囲での捉え方です。

ただ、目の周りと顎がゆるんだあとに、ご本人が「触っていない背中が軽い」とおっしゃる場面は、何度もあります。

今、確かめてみてください

この三つを、順番に試してみてください。

ひとつめ。顎。

今、上下の歯が触れているでしょうか。

本来、力を使っていないときの歯は、わずかに離れています。

触れているなら、それは常時になっている力です。

離してみてください。

舌が上の歯の裏に軽く触れて、唇は閉じたまま、歯だけがすこし離れている。

それが、力を使っていない顎です。

ふたつめ。目。

今、この画面から目を離して、いちばん遠くにあるものを見てください。

窓の外があれば、そこの一番遠く。

なければ、部屋の反対側の壁でも結構です。

そのまま、五つ数えるくらい、そこを見ていてください。

戻ってきたとき、目の奥の感じが変わっているでしょうか。

みっつめ。後頭部。

髪の生え際の、真ん中から指二本ぶん外側。

左右に、少しくぼんだところがあります。

そこに親指を当てて、押さずに、ただ触れていてください。

押し込まなくて結構です。

触れたまま、ひと呼吸。

そして、顎の力を抜くのを、もう一度やってみてください。

首の後ろが、少しゆるむでしょうか。

何も感じなくても、かまいません。

長く続いている構えは、一度で解けるものではありません。

安全だと、体に伝わること

回復力の話に戻します。

体が休む側へ切り替わるには、「もう見張らなくていい」と体のほうが判断する必要があります。

これは、頭で安全だと理解することとは別です。

安全だとわかっているのに緊張が抜けない、という経験は、どなたにもあると思います。

理解と、体の判断は、別の場所で動いています。

体は、体そのものから届く情報で判断しています。

足元の傾き、呼吸の形、そして視野と顎と首の状態。

だから、「伝え方」は言葉ではありません。

視野が広がる。

顎が離れる。

首の後ろがゆるむ。

そのとき初めて、体の側に「もう見張らなくていい」という情報が届きます。

私が施術でしていることは、結局これだと思っています。

体に、言葉ではない方法で状況を伝えること。


見張りを、下ろす

のむら整骨院では、つらい場所をゆるめて終わりにするのではなく、体がまだ何を警戒しているのかを確かめていきます。

目、顎、後頭部——ここが解けると、触れていない場所まで変わることがあります。

首や肩をほぐしても数日で戻る、という繰り返しが続いているなら、それは首や肩の問題ではないかもしれません。

体が何に構えているのか、まず確かめるところからで大丈夫です。

一度ご相談ください。

のむら整骨院 院長 


最終回・第5回「戻るということ」

症状が消えることと、回復力が戻ることは、同じではありません。

この二つを取り違えたまま、長く遠回りをしておられる方がとても多いと感じています。

最後は、そこを書いていきます。

【自律神経と回復力】全5回
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院長経歴

検査で「異常なし」でも、つらさは本物
自律神経の乱れを

体の反応から読み解く整骨院

院長 野村晃生(のむら あきお)
柔道整復師/臨床歴20年以上

自律神経のはたらきを軸に、
身体が安心できる『整える施術』を大切にしています。