深呼吸をしても
変わらなかった方へ
前回は、足元の話を書きました。
重さ(重心)が距骨の真ん中に落ちていれば、体はほとんど力を使わずに立っていられる。
けれど軸から外れていると、倒れないための小さな立て直しが一日中続く。
そして立て直しが続いているあいだ、体は休む側へ切り替わりにくい。
今回は、その続きです。
軸で支えられていない体は、支えることを諦めるわけではありません。
別の方法を探します。
そのひとつが、呼吸です。
深呼吸をしても変わらなかった方へ
先に書いておきたいことがあります。
呼吸が浅いと言われて、深呼吸を心がけてみた。
けれど、あまり変わらなかった。
そういう方が、かなりおられます。
私は、それは当然だと考えています。
浅い呼吸というのは、習慣ではなく結果だからです。
やり方を知らないから浅いのではありません。
深く吸えない状況に体が置かれているから、浅くなっている。
そこを変えずに大きく吸おうとすると、たいてい肩と首でよけいに頑張ることになります。
では、何が起きているのか。
今日は構造の話をします。
呼吸は、筋肉の仕事である
呼吸というと、肺が膨らんだり縮んだりしている絵を思い浮かべる方が多いと思います。
けれど肺は、自分では動きません。
肺は袋で、風船のようなものです。
膨らませているのは、その周りの構造です。
主役は、横隔膜です。
胸とおなかを仕切っている膜状の筋肉で、ドームのような形をしています。
これが下に降りると胸のなかの空間が広がり、空気が入ってきます。
ゆるんで戻ると、空気が出ていきます。
つまり、吸うという動作の中心は、胸を持ち上げることではなく、横隔膜が下に降りることです。
ここが大事なところです。
横隔膜は、下に降りるための場所を必要としています。
おなかの側です。
降りた横隔膜のぶん、おなかの中身は前や横へ逃げなければなりません。
その場所がなければ、横隔膜は降りきれません。
場所がなくなる、二つの理由
では、なぜ場所がなくなるのか。
ひとつは、姿勢です。
前回の話とつながります。
軸から重さが外れると、体はどこかで立て直しをします。
多いのは、上半身を前に落として、腰から引き戻す形です。
あるいは、みぞおちのあたりを固めて、上半身をひとつの塊にしてしまう形。
どちらの場合も、胴体の前側が縮みます。
みぞおちからへそのあいだが、詰まった状態になります。
そこに横隔膜が降りていく余裕はありません。
もうひとつは、おなかの力です。
倒れそうな体を持たせるとき、体はしばしばおなかを固めます。
これは理にかなった対応で、胴体を一本の筒として固めれば、たしかに崩れにくくなります。
工事現場の足場を、斜めの筋交いで固めるのと同じです。
ただ、固めた筒は膨らみません。
横隔膜が降りようとしても、行き先が壁になっています。
そこで、上が動きはじめる
下に降りられなければ、どうするか。
体は、空気を入れることをやめません。
生きるために必要ですから、必ず入れます。
ただ、方法が変わります。
胸を持ち上げるのです。
肩を上げ、鎖骨のあたりを引き上げ、首の横の筋肉を使って、胸郭ごと上へ引っぱる。
これでも胸のなかの空間は広がりますから、空気は入ります。
入るのですが、量が少ない。
そして、はるかに手間がかかります。
横隔膜が降りる動きは、力をほとんど必要としません。
ドームがゆるんで下がるだけです。
一方、胸を持ち上げるほうは、首と肩の筋肉を使った、れっきとした力仕事です。
これを、一日に二万回近く繰り返すことになります。
肩がこる。
首の横が張る。
ここまでは、想像がつくと思います。
けれど、話はそこで終わりません。
上で呼吸している体は、休む場面に入りにくい
ここが、このシリーズの本題です。
体は、今が対応する場面なのか、修復してよい場面なのかを、体そのものから届く情報で判断しています。
前回は、その情報のひとつとして足元の傾きの話をしました。
呼吸も、その情報のひとつです。
肩と首を使った速くて浅い呼吸は、体にとって、走っているときや身構えているときの呼吸です。
ゆっくりと横隔膜が下まで降りる呼吸は、安全なときの呼吸です。
つまり呼吸の形は、結果であると同時に、体への報告にもなっています。
浅い呼吸をし続けている体には、「まだ場面は終わっていない」という報告が上がり続けます。
そして、横隔膜が下まで降りきったとき、体には別の変化も起こります。
おなかの奥がゆるみ、内臓が動きやすくなり、みぞおちの詰まりが抜けていく。
消化や修復に関わる働きは、そこで初めて動きやすくなります。
深呼吸をしても変わらなかったのは、ここに理由があります。
肩で大きく吸い込んだところで、横隔膜は降りていません。
量は増えても、脳への報告の内容は変わらないのです。
これは医学的に確立した説明として申し上げているのではなく、私が現場で見てきた範囲での捉え方です。
ただ、足元と胴体の詰まりが抜けたあとに、ご本人が「息を意識していないのに、自然に深くなっている」とおっしゃる場面は、何度も見てきました。
今、確かめてみてください
ふたつ、試していただけます。
まず、片手をみぞおちに、もう片手をへその少し下に置いてください。
そのまま、いつも通りに息をしてみます。
深く吸おうとしないでください。
普段の呼吸のままで結構です。
どちらの手が、より動いているでしょうか。
みぞおちの手だけが動いて、下の手がほとんど動かないなら、横隔膜は下まで降りていません。
もし肩や胸が上下しているなら、上で呼吸している形です。
次に、もうひとつ。
前回の立ち方を思い出してください。
足は腰幅、前後にゆっくり揺らして、ふくらはぎが張らずに済む位置を探す。
くるぶしの真下です。
その位置で止まって、また手をおなかに置いてみてください。
下の手の動きが、少し変わっているでしょうか。
変わっていたなら、それが答えです。
呼吸を変えようとしていないのに変わったということは、呼吸が原因ではなかったということになります。
何も変わらなくても、かまいません。
詰まりが長く続いている体は、一度の立ち直しでは場所が空きません。
息は、整える対象ではない
まとめます。
私は、呼吸を練習して直すものだとは考えていません。
呼吸は、体が今置かれている状況の表れです。
だから、状況が変われば、勝手に変わります。
頑張って深くしなければならないとしたら、まだ深くできる状況になっていないということです。
回復力の話に戻せば、こうなります。
体が休む側へ切り替わるには、立て直しが要らなくなることと、横隔膜が下まで降りられることが要ります。
そして後者は、前者が整うと自然に起こりやすくなります。
足元が収まる。
胴体の前側が伸びる。
おなかが固める必要がなくなる。
すると横隔膜に降りる場所ができて、息が下りる。
順番が、逆にはなりません。
だから私は、呼吸法から入ることはほとんどありません。
体の置かれている状況を先に変えます。
息が下りる場所をつくる
のむら整骨院では、呼吸そのものを指導するのではなく、横隔膜が働ける状況を整えることから始めます。
足元と胴体の詰まりが抜けると、呼吸は指示しなくても変わっていきます。
深呼吸やストレッチを試してきたけれど手応えがなかった、という方は少なくありません。
それはやり方の問題ではなく、順番の問題かもしれません。
今の体がどういう状況に置かれているのか、まず確かめてみるところからで大丈夫です。
一度ご相談ください。
のむら整骨院 院長 ![]()
次回・第4回「目と、顎と、後頭部」
足元と呼吸が整っても、まだ警戒が解けないことがあります。
周囲を見張るための感覚が集まっている場所が、頭のあたりに三つあります。
次回は、そこを書きます。
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院長 野村晃生(のむら あきお)
柔道整復師/臨床歴20年以上
自律神経のはたらきを軸に、
身体が安心できる『整える施術』を大切にしています。





