ゼッタイしてはいけない行為!“揉む”・“強く押す”
肩こりや腰痛の対処法として最も一般的な行為といえば、マッサージ・指圧・あん摩でしょう。
しかし、これらの行為は、とても危険が伴う可能性があります。
その理由についてお話しします。
『揉むと肉が腐る・・・』
これは、漢方医の先生方に伝えられてきた言葉です。
昔から、“揉む行為”は、体に悪影響があると言い伝えられており、それを指摘した言葉だったのでしょう。
“筋肉を揉む”と硬くなります。
「えっ!?」
「なんで?筋肉を揉むと、ほぐれて軟らかくなるんじゃないの!?」
と不思議に思われたことでしょう。
しかし、『揉むと筋肉は硬くなる』は、真実です。
理由は3つあります。
ひとつは、筋膜が損傷(破ける)する。
もうひとつは、筋線維が切れてしまう。
三つ目は、筋小胞体(きんしょうほうたい)が潰れてしまう。
というのがその理由です。
“揉む行為”で筋肉が硬くなる理由
①筋膜が損傷(破ける)する
②筋線維の断裂
③筋小胞体の損傷
それでは、詳しくご説明いたします。
筋膜が損傷(破ける)する
筋肉は筋線維と呼ばれる細い糸状の組織で構成されています。
ただ、糸状の線維だけではバラバラになってしまいますので、それらを同じ動きをするもの同士をひとまとめにラップで包むような構造になっています。
このラップの存在を筋膜といいます。
「筋膜」は深筋膜、筋周膜、筋上膜、筋内膜と様々な種類があります。
強く揉む行為を繰り返していると、筋膜が傷つくことがあります。
当然、損傷しても治ります。
しかし、修復過程で、本来、柔軟性に富んだ筋膜が肥厚し硬くなってしまい、線維化という状態になり、最悪、筋膜どうしが癒着することになります。
こうなると、スムーズな動きが妨げられ、違和感や不快感、痛みを感じることになります。
筋肉の動きに合わせて均等に伸び縮みする
マッサージの刺激により筋膜の線維が切れてしまう
筋肉の動きに合わせて均等に伸び縮みできない
もう少し詳しく
筋膜は、コラーゲンやエラスチンという成分でできており、動作時に皮膚と筋肉、筋肉と筋肉どうしの摩擦を少なくし、スムーズに滑らせる働きをしています。
また、筋膜には、無数の痛覚神経(ポリモーダル侵害受容器や自由神経終末)が分布しており、痛み等に反応しやすい場所でもあります。
さらに、筋肉を包んでいる筋膜には、たくさんの血管の通り道にもなっており、筋膜が硬くなることで、動脈を圧迫すると血流量が低下し、各組織や細胞の酸欠が起こります。
静脈を圧迫すると、心臓への血液の戻りが悪くなり、むくみが起こったりや老廃物の除去に影響を与え、だるさや痺れの原因にもなります。
筋線維の断裂
筋肉は、糸のような形状をした線維(筋線維=筋細胞)が束になってできており、その1本当たりの太さは約10~150μm(0.01~0.15mm:髪の毛と同じくらいの太さ)とたいへん細く、横方向に強い力で揉むと切れてしまいます。
筋肉は、“筋線維”という細い糸状のものが束ねられてできている。
その“筋線維”は、横方向に揉むと簡単に切れてしまう。
「硬い筋肉」は血行が悪くなっています。
血行が悪くなると、細胞に酸素や栄養分が行き渡らなくなり、凝りやダルさ、痛みを感じます。
筋肉を揉むと、その一瞬だけは血行が確実によくなりますので「気持ちいい〜っ!」という反応が起こります。
しかし、現実は、「気持ちいい〜っ!」という反応とは裏腹に、筋線維が切れて怪我をしている状態なのです。
怪我をすると、当然、痛みが出ます。
一般的に“揉み返し”、“揉み起こし”と言われマッサージの後に起こる痛みは、実は、筋線維の断裂によるものだったのです。
話をさらに先に進めます。
切れてしまった筋線維は修復します。しかし、その修復過程に少し問題があります。
体は、この“切れた筋線維”を繋げるために、カルシウムを使います。
ちょうど、カルシウムを接着剤の代わりにするような感じです。
こうなると、余分なカルシウムが筋肉に溜まります。
そして、さらに筋肉は硬くなってしまうのです。
筋小胞体が損傷する
筋肉は、運動する時(筋収縮)に、カルシウムをスイッチにしています。
ですから、筋線維の中には微量のカルシウムが存在しており、それを貯蔵している袋を“筋小胞体(きんしょうほうたい)”といいます。
筋収縮する時に、筋線維内(筋細胞内)に“筋小胞体”からカルシウムが放出され、アクチンフェラメントのトロポニンに反応し、筋肉が収縮します。
そして、筋肉が収縮をやめる(弛緩する)と、この放出されたカルシウムは、すみやかに筋小胞体に戻ります。
これが、通常、行われている筋収縮と弛緩の仕組みです。
しかし、揉む行為で筋小胞体が損傷すると、貯蔵に支障をきたし、筋線維内にカルシウムが残留してしまいます。
こうなると、さらに筋肉が硬くなってしまいます。
再度、“揉む行為”で筋肉が硬くなる理由
①筋膜が損傷(破ける)する
②筋線維の断裂
③筋小胞体の損傷
三つの理由により、筋膜が線維化し、筋肉には余分なカルシウムが溜まり硬くなる。
筋肉が硬くなると血行が悪くなる。
血行が悪くなると、さらに、筋肉は硬くなる。
筋肉が硬くなると、さらに、血行が悪くなる。
血行が悪くなると、さらに、さらに、筋肉は硬くなる。
・・・・。
“強い力で揉むマッサージ”をよく受ける方は、心当たりがあるかもしれませんが、受け始めた頃は、軽い力で揉まれても、気持ちが良く、揉まれている感覚もあったはずです。
それがいつのまにか、強い力で揉んでもらわないと、“揉まれている”という実感がなくなり、もっと強い力で揉んで欲しいと思ったことはありませんか?
上記の内容を読んでいただくと、その理由が納得していただけると思います。
さらに良くない行為“強く押す”
物理学で言うところの作用反作用の法則が、人体にも当てはまります。
人の体は、突然押されると、反射的に一瞬力が入り硬くなります。
同じように、筋肉も強く押すという行為を行うと一瞬で反発し硬くなります。
これは、先ほどご説明したように、押されたところにカルシウムが一瞬で集まるからで、これを繰り返していると、当然、筋肉はどんどん硬くなっていきます。
ですから、“揉む”と同様に、“強く押す”行為も絶対に行ってはいけません。
※“強く押す”は最も危険な行為です。
ミオグロビンのお話し
私たちの体には、ミオグロビンという物質があります。
これは、通常、筋肉内に存在し、酸素を運んだり蓄えたりしており、筋の収縮(運動)時に使われています。
しかし、筋肉が傷つくと、このミオグロビンは血液中に出てきます。
ミオグロビンは、心筋梗塞等の血液検査の判定に使われることもあります。
心筋梗塞とは、ご存知の通り心臓の筋肉が壊死(えし)を起し、とても危険な病気です。
そして、このミオグロビンは骨格筋(一般的な筋肉)の損傷でも高い数値を示します。
つまり、筋肉を強い力で揉むと、心筋梗塞と同じように、血液中のミオグロビンが高い数値になることが知られています。
トレーニングによる筋肉の「損傷」について
ここで1つ疑問が出ます。
筋肉をトレーニングすると「筋破壊」、「筋損傷」がおこると言われています。
実は、これは正確な表現ではありません。
これについて、『〈東京大学教授〉石井直方の筋肉の科学』から引用します。
筋線維の損傷・再生について、トレーニングの現場では「筋トレで筋肉を壊す」といった極端な言い方をされることがあります。しかし、実際には筋線維はそれほど簡単に壊れることなく、多くの場合は筋肉が疲労している程度、あるいは筋肉の細胞膜の機能が少し損なわれている程度であると考えられます。
エキセントリック(伸張性収縮)トレーニングなどでは、構造的にはっきりとわかる小さな傷ができることはありますが、それも筋肉に大きなダメージを与えるようなレベルのものではありません。普通の筋トレでも目に見えない程度の傷ができている可能性はありますが、それらは痛みを感じることもなく自然に治っているはずです。
ということで、「筋肉を壊す」と言う考え方は正しいとはいえません。むしろ、筋肉を壊すような激しいトレーニングでなくても筋肉はしっかり太くなることを指導者は理解すべきでしょう。
「筋トレで筋肉が切れる」もしくは、「壊れる」は、よく聞く言葉ですが、実際にはトレーニングで簡単に筋線維が切れることはなく、ほとんどが、筋肉が疲労しているか、筋肉の細胞膜の機能が少し低下している程度です。
確かに、エキセントリック(伸張性収縮期)のトレーニングでは、構造的にミクロな損傷ができることがありますが、これは筋肉の“細胞膜”と、筋細胞のまわりにコブのようについている“サテライト細胞”の損傷にすぎません。
マウスを使った実験で、下り坂を走らせエキセントリックトレーニングを行った筋肉の顕微鏡写真を見ても、筋線維の細胞膜付近にのみミクロの炎症が見られるだけです。
このように、筋肉を“揉む”・“強く押す”行為での悪影響と、筋トレなど運動で筋肉に与える影響では大きく異なります。
のむら整骨院 院長
参考文献
杉 晴夫(2003)『筋肉はふしぎ―力を生み出すメカニズム』講談社.
石井 直方(2015)『〈東京大学教授〉石井直方の筋肉の科学』ベースボールマガジン社.
谷本 道哉・石井 直方(2005)『使える筋肉・使えない筋肉』山海堂.