眠れない夜は、昼間にも続いている

その疲れ、
夜から続いていませんか

朝、目は覚めている。

でも、頭が働かない。

会議の話がなかなか頭に入ってこない。
いつもなら気にならない一言が、妙に引っかかる。

そんな日が続くと、多くの方は「睡眠時間が足りないのかな」と考えます。
そして、早めに布団に入ったり、週末に寝だめをしたりします。

もちろん、睡眠時間は大切です。

けれども、日本の働く世代を対象にしたある研究は、もう一つ別のところに目を向ける必要があることを示しています。

それは、「何時間眠ったか」よりも、「眠れない状態があるかどうか」です。

今回は、この研究を手がかりに、夜の眠りと昼間の心と体のつながりを考えてみます。

睡眠の問題は「時間」だけではない

「よく眠れていない」と一言でいっても、その中身はさまざまです。

今回の研究では、睡眠の問題を次の3つに分けて調べています。

睡眠負債とは、その人に必要な睡眠に対して、実際の睡眠がどれだけ足りていないかを表すものです。
研究では、本人が理想とする睡眠時間から、1週間の平均睡眠時間を引いて計算しています。

社会的時差ぼけとは、平日と休日で眠る時間帯がどれだけずれているかを表すものです。
平日は仕事に合わせて早く起き、休日は遅くまで寝ている。
そのずれを、海外旅行の時差ぼけになぞらえた言葉です。

不眠症状とは、寝つけない、夜中に目が覚める、朝早く目が覚めてしまう、といった眠りの困りごとです。
研究では、眠りへの不満や日中への支障も含めて点数化し、一定以上の人を「不眠症状あり」としています。

同じ7時間の睡眠でも、すっと眠って朝まで目覚めない人と、2時間寝つけずに夜中に何度も目が覚める人とでは、眠りの中身はまったく違います。

「睡眠の時間だけでは見えないものがある。」

この点は、以前の記事「眠った時間だけでは、回復は分からない」でもお伝えしました。
今回の研究は、その「見えないもの」が昼間の仕事や心の状態とどう関係しているのかを調べたものです。

働く世代351人の研究でわかったこと

この研究は、福山大学・北海道医療大学の高野裕太氏らが2022年に発表したものです。

対象は、1日8時間・週5日のフルタイムで働き、夜勤のない日本人351人。
平均年齢は49歳で、約8割が男性でした。
2021年6月にインターネット調査で行われ、このうち103人、およそ3人に1人に不眠症状がありました。

研究者たちは、睡眠の3つの問題が、次の2つとどう関係しているかを調べました。

一つは、仕事のパフォーマンスの低下です。
過去4週間の自分の仕事ぶりを0から10で評価してもらい、心の不調による休職が増えるとされる水準以下の人を「パフォーマンスが落ちている状態」としました。

もう一つは、心理的な苦痛です。
気分の落ち込みや不安などを点数化する質問票で、一定以上の人を「心理的苦痛あり」としました。

睡眠時間の不足だけを見ると

まず、睡眠負債と社会的時差ぼけの2つだけで分析すると、睡眠負債には仕事のパフォーマンス低下とも、心理的苦痛とも関連がありました。
睡眠負債が1時間増えるごとに、どちらに当てはまる可能性も約1.6倍高くなっていたのです。

不眠症状を加えると、景色が変わった

ところが、ここに不眠症状を加えて分析すると、結果が大きく変わりました。

不眠症状のある人は、ない人に比べて、仕事のパフォーマンスが落ちている状態に当てはまる可能性が約5.6倍、心理的苦痛に当てはまる可能性が約7.3倍高くなっていました。

そして、睡眠負債の関連は統計的にはっきりしなくなりました。

つまり、「睡眠不足のせい」に見えていたものの一部は、実は「眠れなさ」と重なっていた可能性があるのです。

研究者たちは、不眠症状こそ最も優先して向き合うべき睡眠の問題だと結論づけています。
同時に、不眠症状のない人にとっては、睡眠負債への対策もやはり必要だと述べています。

この研究の読み方で気をつけたいこと

「5.6倍」「7.3倍」という数字は、「不調が7倍になる」という意味ではありません。
不調に当てはまる人の割合が、不眠症状のある人で大きく偏っていた、という意味です。

また、この研究はある一時点の状態を調べたものです。
眠れないから昼間がつらいのか、昼間がつらいから眠れないのか、その順番まではわかりません。

さらに研究者自身も、不眠のある人は実際より睡眠時間を短く感じやすく、睡眠負債を多めに答えていた可能性があると述べています。

私は、この「どちらが先かわからない」という点に、むしろ大切なことが含まれていると考えています。
それについては、このあと詳しくお話しします。

週末の寝だめは意味がある?

この研究で、もう一つ興味深い結果があります。

平日と休日で眠る時間帯がずれる「社会的時差ぼけ」には、仕事のパフォーマンス低下とも、心理的苦痛とも関連が見られなかったのです。

研究者たちは考察の中で、平日に十分眠れないのであれば、時間帯がずれても週末に長めに眠ることが大切かもしれない、と述べています。

ただし、この研究は休日に目覚ましを使う人も含めていて、ずれの測り方には限界があることも研究者自身が認めています。

ですから、「寝だめをしても問題ない」とまでは言えません。

ここで私が大切だと思うのは、寝だめで取り戻せるのは、主に睡眠の「量」だということです。

寝つけない、夜中に目が覚めるといった「眠れなさ」は、週末に長く布団にいても、なかなか解決しません。

週末にたっぷり寝たのに、月曜の朝がやはりつらい。

そんなときは、睡眠の量よりも、眠りそのものの状態に目を向けてみる必要があるのかもしれません。

眠る時間帯のずれが心とどう関わるのか、とくに男女で違いが見られた研究については、「同じ夜更かしでも、女性の体には「もっと遅い夜」になる」で詳しく書いています。

眠れないのは、体が警戒をやめられないから

では、なぜ「眠れなさ」は、昼間の状態とこれほど強く結びつくのでしょうか。

不眠の研究では、不眠を単なる「睡眠の不足」ではなく、「覚醒の過剰」として捉える考え方が広く支持されています。
これを「過覚醒」と呼びます。

本来、夜になると、体は昼間の活動モードから休息モードへと切り替わっていきます。
心拍がゆっくりになり、体温が下がり、頭の働きも静まっていきます。

ところが、不眠のある人では、この切り替えがうまくいきにくいことがわかってきています。
夜になっても心拍が高めだったり、ストレスに関わるホルモンが多めだったり、脳が覚醒に近い状態のままだったりする、という報告が積み重なっているのです。

眠れないのは、眠る力が足りないからではない。

体が、警戒をやめられないからです。

そして、この警戒は夜だけのものではありません。

夜に降りられなかった警戒は、そのまま昼間にも残ります。
集中が続かない。
ささいなことに反応してしまう。
何もしていないのに疲れている。

こう考えると、今回の研究で不眠症状が昼間の不調と強く結びついていたことにも、筋が通ります。

先ほど、「眠れないから昼間がつらいのか、昼間がつらいから眠れないのか、順番はわからない」とお伝えしました。

私は、その両方が起きていると捉えています。

昼間の緊張が夜に持ち越され、夜の眠れなさが翌日の緊張を強める。
眠りの問題は、夜と昼をまたいで続く一つの循環なのだと思います。

研究者たちも、不眠症状は長引きやすく、ある調査では不眠のあった人の約7割が1年後も不眠を抱えていたことを紹介しています。
一度回り始めた循環は、自然には止まりにくいのです。

見張りを続ける体と心の関係については、「考えても不安が消えないとき、体では何が起きているのか」でも詳しくお話ししています。

私が臨床でみていること

眠れないと訴える方の体に触れると、私は多くの場合、施術台に横になって休んでいるはずなのに、体がまだ身構えていると感じます。

目の奥が張っている。
奥歯を噛みしめている。
後頭部から首にかけてが硬い。
呼吸が胸の上のほうで浅くなっている。

これらは、周囲を警戒しているときの体の姿勢です。

本人は「ただ眠れないだけ」と思っていても、体は一日中、どこかで見張りを続けている。
そういう方が少なくありません。

この「目と顎と後頭部」の緊張については、「目と、顎と、後頭部」の記事でも詳しくお話ししています。

私は、眠りは「掴みにいく」ものではなく、警戒が解けたときに自然に「訪れる」ものだと捉えています。

だからこそ、眠れない夜にいくら「早く寝なければ」と頑張っても、うまくいかないことが多いのです。
頑張ること自体が、また一つの緊張になるからです。

当院の施術では、無理に眠らせようとはしません。

体が身構えを解き、自律神経が休息の側へ戻れる状態をつくる。
そこを大切にしています。

この考え方については、「治そうとしないこと」でもお話ししています。

自律神経の乱れについては、「自律神経失調症」のページもあわせてご覧ください。

昼間のつらさから、夜を見直す

ご自分の眠りを見直すとき、次の3つの視点で振り返ってみてください。

1.眠りの量は足りているか

休日になると、平日よりかなり長く眠ってしまう。
そうであれば、平日の睡眠が体に必要な量に届いていないのかもしれません。

2.眠れなさはないか

寝つきに時間がかかる。
夜中に目が覚める。
朝早く目が覚めて、もう眠れない。
ぐっすり眠った感じがしない。
こうしたことが、週に何度もあり、それが何週間も続いていないでしょうか。

3.昼間にどう現れているか

集中が続かない。
いらだちやすい。
気持ちが沈む。
仕事でのミスが増えた。
昼間の自分の変化も、眠りの状態を映す大切な手がかりです。

今回の研究からいえば、特に見逃したくないのは2つ目です。

そして眠れなさがあるときには、一つ知っておいていただきたいことがあります。

眠れないからといって早めに布団に入ると、かえって逆効果になることがあるのです。

眠れないまま布団の中で過ごす時間が長くなると、体は「布団は眠れない場所だ」と覚えてしまいます。
薬を使わない方法として研究が進んでいる「不眠の認知行動療法」でも、眠くなってから布団に入り、眠れなければいったん布団を出ることが大切にされています。

もう一つ、私がおすすめしたいのは、夜の前に、昼間の警戒を一度下ろしておくことです。

夕方や帰り道に、奥歯の力を抜いて、息を長く吐いてみる。
それだけでも、体が見張りを続けていたことに気づく方は多いものです。

入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒といった不眠の症状については、「不眠症」のページで詳しくご説明しています。

こんなときは、検査を受けておくと安心です

  • 大きないびきや、眠っている間の呼吸の停止を指摘される
  • 動悸や汗、体重の急な変化をともなう
  • 死にたい気持ちがわいてくる

眠りは、夜だけのものではない

大切なのは、何時間眠ったかという数字だけではありません。

眠れない夜があるかどうか。

そして、その夜が昼間の自分にどう続いているか。

眠りの問題は、夜の布団の中だけで起きているのではありません。
昼間の緊張から始まり、夜を越えて、また翌日へと続いていきます。

前の晩の眠りが、翌日の糖の処理にまで関わっていることを示した研究もあります(「血糖値は、食べたものだけで決まらない」)。

だからこそ、夜だけを何とかしようとするのではなく、昼間の体の身構えにも目を向けてみてください。

眠りは、掴みにいくものではなく、訪れるものです。

体が警戒を解いたとき、眠りは自然に戻ってきます。

眠れない夜が続いている方、昼間のつらさが抜けない方は、一度ご相談ください。
体がどこで身構えているのかを確かめるところから始めます。

初めての方は「初診の流れ」をご覧ください。

のむら整骨院 院長 野村晃生

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参考文献

  • Takano Y, Ibata R, Nakano N, Sakano Y. Impact of sleep debt, social jetlag, and insomnia symptoms on presenteeism and psychological distress of workers in Japan: a cross-sectional study. BioPsychoSocial Medicine. 2022;16:13. https://doi.org/10.1186/s13030-022-00242-5

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院長経歴

検査で「異常なし」でも、つらさは本物
自律神経の乱れを

体の反応から読み解く整骨院

院長 野村晃生(のむら あきお)
柔道整復師/臨床歴20年以上

自律神経のはたらきを軸に、
身体が安心できる『整える施術』を大切にしています。