笑ったあと、
体は何をしているのか?
呼吸が浅いのは習慣ではなく結果で、深く吸えない状況に体が置かれているから浅くなっている。
だから、やり方を変えても届かない。
そう書いたあとで、少し補っておきたいことがあります。
呼吸を意識してもうまくいかない方が、たったひとつ、何もしていないのに息が深くなる瞬間を持っていることがあります。
大笑いしたあとです。
意識していないのに、起きている
思い出してみてください。
腹を抱えて笑ったあと、息がどうなっていたか。
ひとしきり笑い終わったあと、たいてい深く息が入ります。
肩の力が抜けています。
胸のあたりが、それまでより広く感じられることもあります。
呼吸を意識していたわけではありません。
深く吸おうともしていません。
むしろ、笑っているあいだは息が乱れていたはずです。
にもかかわらず、呼吸法が起こしたい変化が、そこでは起きています。
私はこれを、ずっと面白いことだと思ってきました。
意識して起こせないものが、意識していないときに起きている。
ここには、呼吸というものの性質が出ています。
笑うとき、体は何をしているか
大笑いしているときの体を、少し細かく見てみます。
まず、息を吐いています。
しかも、続けて吐いています。
ハッハッハ、と切れ目なく吐き続けて、どこかで一気に吸い込む。
笑いというのは、呼気が主役の運動です。
このとき、横隔膜は上下に動き続けています。
前に書いたとおり、吸うという動作の中心は、胸を持ち上げることではなく横隔膜が下に降りることです。
笑っているあいだ、この動きが繰り返し起こっています。
次に、胸のあたりが揺れています。
吐く勢いが強いので、胸郭ごと揺さぶられます。固めておくことができません。
そして、声が出ています。
喉が震えています。
顔も動いています。目が細くなり、口が開き、頬が上がる。
さらに、誰かと一緒に笑っているなら、もうひとつ加わります。
相手も同じように笑っている。声のリズムが揃い、呼吸のタイミングが近づいていく。
このとき体は、目の前の相手が警戒していないことを、はっきり受け取っています。
一度に、全部起きている
ここが大事なところだと思います。
呼吸法でやろうとしていることを、笑いは一度にやってしまいます。
深く吐く。
横隔膜を動かす。
胸郭をゆるめる。
喉を開く。
顔の力を抜く。
そして、安全であることを確かめる。
呼吸法で狙うのは、たいていこのうちの一つか二つです。
吐く時間を長くする。
おなかを膨らませる。
数を数える。
どれも意味のあることですが、一つずつ順番に、しかも意識の力で起こそうとしています。
笑いは、それを勝手に、同時にやります。
そして、意識が関わっていません。
「今から胸郭をゆるめよう」と思って笑う人はいません。
おかしいから笑っているだけです。
体のほうが、先に動いています。
なぜ、意識では届きにくいのか
第4回で、目と顎と後頭部の話を書きました。
危ないと感じたとき、体は目を見開き、顎を締め、首の後ろを固めます。
教わらずにそうなります。
そして、その状態が長く続くと、入ったままになる。
胸も同じです。
身構えているとき、胸は固まります。
息を詰めて何かに耐えたことは、どなたにもあると思います。
あのとき胸は動いていません。
動かないことで、体を一本の塊にして持たせています。
これは、体のやり方としては理にかなっています。
ただ、長く続いた場合、その形が残ります。
そして、固まっている本人には、固まっている自覚がありません。
長く力を入れ続けている体は、力が入っていること自体に気づけなくなっています。
ここに向かって「深呼吸しましょう」と言っても、届きにくい。
固めておくべき理由があると体が判断しているのに、意識だけがそれを解こうとしているからです。
たいていは、肩と首でよけいに頑張ることになります。
笑いが違うのは、体のほうに先に働きかけている点です。
おかしい、という入り口から入って、気づいたときには胸が揺れている。
判断を挟む余地がありません。
笑えないときのこと
ここまで書くと、笑えばいいという話に聞こえるかもしれません。
そうではありません。
笑おうと思って笑えるなら苦労はしませんし、しんどい時期にいる方に「笑ってください」と言うのは、あまり意味のあることではないと思っています。
笑いが教えてくれるのは、方法ではありません。
体が切り替わるとき、何が同時に起きているかです。
深く吐いている。
横隔膜が動いている。
胸が揺れている。
喉が開いている。
顔がゆるんでいる。
これが揃うと、体は休む側へ入りやすい。
逆に言えば、笑いでなくても、この条件が揃えば同じことが起こりやすいということでもあります。

吐くほうから入る
ひとつだけ、試していただけることを書きます。
吸うことは、いったん忘れてください。
まず、吐きます。
口をすこし開けて、ハー、と息を出します。
細く長くではなく、ゆるく、力を抜いて。
途中で止めず、出るところまで出します。
吐ききったら、そのまま待ってください。
吸おうとしないでください。
しばらくすると、勝手に入ってきます。
このとき入ってきた息が、深呼吸で吸い込んだ息と、どう違うでしょうか。
入り方が違うと感じられたなら、それが答えです。
呼吸というのは、吸うところから始まるものではありません。
吐いて空いたところに、入ってくるものです。
笑いが起こしているのも、順番としては同じです。吐き続けた結果、大きく入ってくる。
もう一つ、声を足してもかまいません。
ハーと吐くとき、小さく声を出してみてください。
人がいる場所なら、聞こえない程度で結構です。
喉が震えます。
震えたとき、胸のあたりに何か変化があるでしょうか。
何も感じなくても、かまいません。
長く固まっている胸は、一度では動きません。
呼吸は、結果である
まとめます。
私は、呼吸を練習して直すものだとは考えていません。
呼吸は、体が今どういう状況に置かれているかの表れです。
状況が変われば、勝手に変わります。
笑ったあとに息が深くなるのは、笑いが上手だからではありません。
笑っているあいだ、体が「今は身構えなくていい」という状況に置かれていたからです。
これは、医学的に確立した説明として申し上げているわけではありません。
私が現場で体を見てきた範囲での捉え方です。
ただ、施術のあとに笑い出す方は、けっこうおられます。
特に面白いことが起きたわけではありません。胸のあたりがゆるんだときに、なぜか笑いが出る。
順番が逆のようですが、たぶん同じことなのだと思っています。
体がゆるむと、笑いが出る。
笑うと、体がゆるむ。
どちらからでも入れます。
胸が固まったままの方へ
のむら整骨院では、呼吸そのものを指導するのではなく、胸や胴体が固まっている理由のほうを見ていきます。
深呼吸やストレッチを試してきたけれど手応えがなかった、という方は少なくありません。
それはやり方の問題ではなく、順番の問題かもしれません。
息が吐けない、胸が硬い、呼吸を意識すると苦しくなる。
そういう状態が続いているなら、一度ご相談ください。
今の体がどうなっているのかを確かめるところからで大丈夫です。
のむら整骨院 院長 ![]()
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体の反応から読み解く整骨院

院長 野村晃生(のむら あきお)
柔道整復師/臨床歴20年以上
自律神経のはたらきを軸に、
身体が安心できる『整える施術』を大切にしています。





