骨は、誰が育てているのでしょう
骨を丈夫に保つには、何が必要でしょうか。
多くの方は、カルシウムと運動を思い浮かべると思います。
もちろん、どちらも大切です。
けれど最近、骨の強さに関わる、少し意外な存在が見えてきました。
それは、脳です。
2024年、骨づくりを促すホルモンが脳の中で働いている、という研究が科学誌『Nature』に発表されました。
今回はこの研究を入り口に、骨と体全体のつながりについて考えてみたいと思います。
骨は、毎日生まれ変わっている
骨というと、一度できあがったら変わらない、硬い柱のようなものを想像するかもしれません。
けれど実際の骨は、生きた組織です。
骨の中では、古くなった骨を壊す細胞と、新しい骨をつくる細胞が、休むことなく働いています。
この壊しては作り直す営みによって、私たちの骨は、数年のうちに少しずつ入れ替わっていきます。
そしてもう一つ、知っておいていただきたいことがあります。
骨の強さは、骨の「量」だけでは決まらない、ということです。
骨はよく、鉄筋コンクリートにたとえられます。
カルシウムなどのミネラルがコンクリート、骨の中に張り巡らされたコラーゲンの線維が鉄筋にあたります。
コンクリートがいくら詰まっていても、鉄筋が弱ければ、強い衝撃でぽきっと折れてしまいます。
骨密度という「量」に加えて、しなやかさや粘りといった「質」があってはじめて、折れにくい骨になるのです。
では、この骨の作り替えは、何によって調節されているのでしょうか。
授乳中の母親の体で見つかったこと
手がかりは、授乳中の母親の体にありました。
赤ちゃんに母乳を与える時期、母親の体では、骨を守る働きのある女性ホルモン(エストロゲン)が低下します。
さらに、母乳に含まれるカルシウムの一部は、母親の骨から運ばれます。
実際、授乳中は骨の量が一時的に減ることが知られています。
それでも、多くの母親の骨はもちこたえ、授乳期に骨折が起こることはまれです。
なぜでしょうか。
米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームは、この問いをマウスで調べました。
そして、脳の視床下部という場所にある神経細胞が、授乳期に「CCN3」というホルモンを出し、骨づくりを後押ししていることを突き止めました。
この神経細胞がCCN3を出せないようにすると、授乳中の母マウスの骨は急速に弱くなり、子マウスの体重も減り始めたといいます。
さらに、CCN3を増やしたマウスでは、若いマウスでも高齢のマウスでも、オスでもメスでも、数週間で骨の量と強さが大きく増えました。
高齢マウスの骨折部位にCCN3を少しずつ届けると、通常より早く骨がつながることも示されています。
つまり、授乳期の母親の体には、エストロゲンが減っても骨が減りすぎないよう支える、もう一つの仕組みが用意されていたのです。
ただし、これはマウスでの研究です。
人の骨粗鬆症や骨折の治療に使えるかどうかは、まだ確かめられていません。
それでも、この研究が教えてくれることは大きいと私は感じています。
骨は、骨の中だけで完結しているのではなく、脳からの働きかけも受けながら育てられている、ということです。
脳と骨のつながりは、これだけではない
実は、脳と骨の関係が見つかったのは、今回が初めてではありません。
たとえば、脳の視床下部が、自律神経の交感神経を通して、骨をつくる働きに影響していることが、以前から研究で示されてきました。
また、強いストレスが続くと分泌が増えるステロイドホルモンには、骨をつくる働きを弱める作用があります。
ステロイド薬を長く使うと骨粗鬆症になりやすいことは、医療の世界ではよく知られた話です。
さらに面白いのは、その逆の流れもあることです。
骨からもホルモンが出ていて、それが脳や全身の代謝に働きかけている、という研究が報告されています。
脳が骨に語りかけ、骨もまた脳に語りかけている。
骨は、体を支える柱であると同時に、全身と情報をやりとりしている器官でもあるのです。
骨を育てる、三つの流れ
ここまでの話をまとめると、骨は三つの流れに支えられていると考えることができます。
一つ目は、重力です。
骨は、体重がかかり、負荷を受けることで、その方向に強くなろうとします。
無重力の宇宙で過ごす宇宙飛行士は、運動を欠かさなくても、骨の量が地上よりずっと早く減っていくことが知られています。
骨にとって、重力を受けて立ち、歩くことそのものが、大切な刺激なのです。
(重さが体の中をどう通っているかについては、「距骨と、重力の中心軸」で詳しく書いています。)
二つ目は、栄養です。
カルシウムやビタミンD、そしてコラーゲンの材料になるたんぱく質は、骨をつくるための素材です。
三つ目が、神経とホルモンの状態です。
どれだけ素材がそろっていても、骨を作り替える働きそのものは、脳や自律神経、ホルモンによって調節されています。
私たちは、骨のことを考えるとき、一つ目と二つ目には目を向けます。
けれど三つ目は、これまであまり語られてこなかったのではないでしょうか。

若木の骨、枯れ枝の骨
臨床で体に触れていると、ときどき不思議に思うことがあります。
同じ年代でも、骨の印象がまったく違う人がいるのです。
私が大切にしているのは、骨の硬さよりも、しなやかさです。
骨は硬いものと思われがちですが、実はわずかにしなります。
そのしなりが、転んだときやぶつけたときの衝撃を受け止め、折れにくさにつながっています。
若木のようにしなやかで、押し返してくるような弾力を感じる骨もあれば、枯れ枝のように、硬いのにどこか心もとない骨もあります。
そして、その違いは、運動量や食事の内容だけでは説明しきれないように感じてきました。
よく眠れているか、緊張が抜ける時間があるか。
そうした体全体の状態と、骨の印象が重なって見えることがあるのです。
もちろん、これは私が手で感じてきた範囲のことで、骨密度を測ったわけではありません。
ただ、今回の研究を知ったとき、その感覚に一つの裏づけをもらったような気がしました。
体は、さまざまな部分が別々に働いているわけではありません。
骨も、筋肉も、内臓も、神経も、それぞれが影響し合いながら、私たちの生命を支えています。
だから私は、骨のことも、骨だけを見ていては分からないと捉えています。
眠りが深くなり、張りつめていたものがゆるみ、体が本来の状態へ戻っていく。
その流れの中で、骨もまた育てられているのだと思うのです。
(体が本来の状態へ「戻る」ということについては、「戻るということ」に書いています。)

骨を育てているのは、体全体
骨の強さは、骨だけで決まるものではありません。
重力を受けて立つこと、食べること、そして眠りや緊張といった体全体の状態。
そのすべてが重なり合って、骨は日々作り替えられています。
骨密度という数値は、骨の「量」を映していますが、しなやかさまでは映しません。
数字の上下だけにとらわれず、骨を育てている体全体にも、目を向けてみてください。
私たちの体には、まだ知られていない調節の仕組みが、きっとたくさん隠れています。
年齢とともに体の変化が気になってきた方こそ、一度、体全体の状態を見せてください。
どこが張りつめ、どこで流れが滞っているのか。
骨を支えている全身の状態から、一緒に確かめていきましょう。
ご予約・ご相談は、下の来院案内からどうぞ。
のむら整骨院 院長 ![]()


参考文献
- Babey ME, et al. A maternal brain hormone that builds bone. Nature, 2024.
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院長 野村晃生(のむら あきお)
柔道整復師/臨床歴20年以上
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身体が安心できる『整える施術』を大切にしています。





