その血糖、
眠りと関係していませんか?
血糖値が気になると、まず「甘い物を減らそう」「ご飯を控えよう」と考える方が多いと思います。
健診で数値を指摘されてから、食事の内容に気をつけるようになった方もいらっしゃるでしょう。
では、前の晩の眠りを振り返ったことはあるでしょうか。
食べた糖を処理する体の働きは、いつも同じとは限りません。
睡眠を短くすると、健康な人でも、血糖を調節するホルモン「インスリン」が効きにくくなることが、実験で確かめられています。
今回は、食事の話から少し視点を広げて、眠りと血糖調節の関係を見ていきます。
血糖値は「入ってくる糖」と「体の処理」の両方で決まる
食事でとった炭水化物は、消化されてブドウ糖になり、血液に入ります。
これが血糖です。
血糖を一定の範囲に保つために働くのが、膵臓から出るインスリンです。
インスリンは、筋肉などの細胞に糖を取り込ませます。
同時に、肝臓が血液に糖を出しすぎないよう抑えています。
血糖値は、口から入る糖の量だけで決まるわけではありません。
肝臓からも糖は出ています。
そして、入ってきた糖を体がどれだけうまく処理できるかによって、同じ食事でも血糖の動きは変わります。
「インスリンが効きにくい」とは、インスリンが出ていても、糖の取り込みや肝臓の抑えが十分に働かない状態のことです。
インスリン抵抗性とも呼ばれます。
食べたものをエネルギーに変える体の働きについては、「寝ても疲れが取れない・冷える・むくむ ― 体の“燃える力”が落ちているサイン」でも取り上げています。
つまり、血糖を考えるときには、「何を食べたか」と同じくらい、「それを処理する体が、どんな状態にあるか」が大切になります。
その体の状態を左右するものの一つが、眠りです。
一晩の寝不足で、数値に表れない変化が起きていた
オランダの研究グループが2010年に発表した実験を紹介します。
対象は、健康な成人9人(男性5人、女性4人)です。
同じ人が、通常どおり眠った夜(実際の睡眠は約7時間半)と、4時間だけ眠った夜(実際は約3時間45分)の翌日に、それぞれ検査を受けました。
検査では、インスリンを点滴で一定に流しながら、血糖を保つのにどれだけ糖が必要かを調べています。
インスリンがどれだけ効いているかを、詳しく測る方法です。
その結果、寝不足の翌日は、筋肉などへの糖の取り込みが約2割低下していました。
肝臓から糖が出るのを抑える働きも、弱まっていました。
研究者は、一晩の睡眠不足で、体のいくつもの経路にインスリン抵抗性が生じたとまとめています。
注目したいのは、ここからです。
この実験では、寝不足の翌日でも、点滴を始める前のふだんの状態では、血糖値やインスリン値に違いがありませんでした。
ふだんの数値は同じでも、インスリンへの反応はすでに変わっていたのです。
数値として見える結果と、その数値を調節している体の働きは、同じものではありません。
もちろん、これは9人を対象にした短期の実験です。
一晩眠れなかったから糖尿病になる、という意味ではありません。
研究者自身も、健康な人のインスリンの効きやすさは決まったものではなく、前の晩の睡眠時間によって変わると述べています。
眠った時間が同じでも、糖を処理する働きは変わった
睡眠の「長さ」ではなく、「中身」に注目した実験もあります。
アメリカのシカゴ大学が2008年に発表したものです。
対象は、20〜31歳の健康でやせ型の9人(男性5人、女性4人)です。
眠っている間の脳波を測り、深いノンレム睡眠(徐波睡眠)に入りかけると、目が覚めない程度の音を流しました。
こうして深い眠りを浅い眠りに置き換え、深い睡眠を約9割減らしています。
眠った時間そのものは、変えていません。
これを3晩続けたところ、インスリンの効きやすさは約25%低下しました。
しかも、効きにくくなった分を補うだけのインスリン分泌の増加は、起きていませんでした。
さらに、深い睡眠の減り方が大きい人ほど、インスリンの効きやすさの低下も大きかったと報告されています。
眠りは、ただ体を横にして、時間が過ぎるのを待つことではありません。
眠っている間にどのような状態を通るかが、翌日の糖の調節にも関わっているのです。
ただし、この結果から「深く眠れれば短時間でよい」とは言えません。
眠りの長さと中身は、どちらか一方で足りるものではないからです。
眠りを時間だけでなく、いくつかの面から見る考え方は、「眠った時間だけでは、回復は分からない」で詳しく紹介しています。
「我慢」の前に、眠りから変わることもある
ここまでは、糖を処理する体の側の話でした。
もう一つ、食べる量そのものに関わる研究があります。
2022年にシカゴ大学などのグループが発表した、無作為化比較試験です。
対象は21〜40歳の過体重の成人80人で、ふだんの睡眠が6.5時間未満の人たちでした。
半数の人には、一人ひとりの生活に合わせて睡眠習慣を見直す相談を1回行い、残りの半数はそれまでどおりに過ごしてもらいました。
どちらのグループにも、食事制限や運動の指示はしていません。
食べた量は自己申告ではなく、特殊な水を使った検査(二重標識水法)で客観的に算出しています。
2週間後、睡眠を見直したグループは、一晩あたり平均約1.2時間長く眠るようになりました。
そして、食べた量は、もう一方のグループに比べて1日あたり約270kcal少なくなっていました。
食べる量を減らそうとすると、私たちはまず「我慢すること」を考えます。
けれど、眠る時間を確保することが、結果として食べる量の変化につながる場合もあるのです。
これは2週間の試験で、血糖値を直接調べた研究ではありません。
それでも、食事に気をつける取り組みの中に、眠りも含めて考える余地があることを示しています。
食事を「何を食べるか」だけで考えない視点は、「その健康志向が不調の原因?栄養より先に整えるべき【食事の本質】」でも取り上げています。
数値の手前にある「調節する力」を見る
三つの研究に共通しているのは、体には、数値や行動の手前に「調節する働き」があるということです。
血糖値は、体の状態を知る大切な手がかりです。
けれど、数値はあくまで、その調節の働きがつくり出した結果です。
最初の研究では、ふだんの数値が同じでも、インスリンへの反応はすでに変わっていました。
平均値では見えなかった血糖の「揺れ」と、心臓の自律神経の関係については、「自律神経は「バランス」だけでは語れない――身体の変化に反応する力」で取り上げています。
私は、症状や数値が表に出る前に、体の調節の働きが揺らいでいる段階があると捉えています。
数値や症状だけを追いかけるのではなく、それを生み出している体の働きに目を向けたいと考えています。
この考え方は、「症状が消えることと、体が良くなることは違う」でもお話ししました。
もう一つ、三つめの研究は、意志の力だけに頼らなくても、体の仕組みのほうから変化が起こりうることを示しています。
体は、気合いではなく仕組みで動いています。
食事を我慢で抑え込む前に、眠りという土台を整える。
そのほうが、体にとっては自然な順番なのかもしれません。
回復と意志の関係については、「回復に、気合いはいらない ── 体はもともと「仕組み」で動いている」で詳しく書いています。
まとめ|食生活を振り返るとき、前の晩の眠りも一緒に
最後に、ご自分の生活を少し振り返ってみてください。
- 食事には気をつけていても、睡眠時間を削る生活になっていないでしょうか。
- 眠る時間が、仕事や家事のあとの「残り時間」になっていないでしょうか。
- 食事や運動だけで何とかしようとして、眠りを後回しにしていないでしょうか。
血糖値を考えるとき、「何を、どれくらい食べたか」は大切です。
そこにもう一つ、「その糖を処理する体は、十分に眠れていたか」という視点を加えてみてください。
眠りを整えることだけで、血糖の問題がすべて解決するわけではありません。
それでも、前の晩の眠りまで含めて食生活を見直すと、そこから気づけることがあるはずです。
なかなか寝つけない、夜中に目が覚めるといったお悩みがある方は、「【不眠症】(入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒)」のページもご覧ください。
眠れない夜が日中の体にどう続いていくかは、「眠れない夜は、昼間にも続いている」で取り上げています。
寝る前に取り入れやすい呼吸の方法は、「【快眠】体にかける催眠術!?一瞬で眠りを誘う“3秒・5秒の呼吸”の方法」で紹介しています。
食事に気をつけているのに体調がすっきりしない方、眠りが浅いと感じている方は、一度ご相談ください。
体の調節の働きがどこで滞っているかを確かめるところから始めます。
初めての方は「初診の流れ」をご覧ください。
のむら整骨院 院長 ![]()









参考文献
- Donga E, van Dijk M, van Dijk JG, et al. A single night of partial sleep deprivation induces insulin resistance in multiple metabolic pathways in healthy subjects. J Clin Endocrinol Metab. 2010;95(6):2963–2968. https://doi.org/10.1210/jc.2009-2430
- Tasali E, Leproult R, Ehrmann DA, Van Cauter E. Slow-wave sleep and the risk of type 2 diabetes in humans. Proc Natl Acad Sci USA. 2008;105(3):1044–1049. https://doi.org/10.1073/pnas.0706446105
- Tasali E, Wroblewski K, Kahn E, Kilkus J, Schoeller DA. Effect of sleep extension on objectively assessed energy intake among adults with overweight in real-life settings: a randomized clinical trial. JAMA Intern Med. 2022;182(4):365–374. https://doi.org/10.1001/jamainternmed.2021.8098
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院長 野村晃生(のむら あきお)
柔道整復師/臨床歴20年以上
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