免疫力は「高める」ほどいいのか? ウイルス感染と自律神経から考える

整うとは、強くなることか?

ウイルスから身を守る、本当に大切なこと

風邪やインフルエンザ、新型コロナウイルスなどの感染症。

感染を防ぐために手を洗う。マスクをする。人混みを避ける。

こうした対策は、すっかり私たちの日常に定着しました。

一方で、こんな言葉もよく耳にします。

「免疫力を高めれば病気にならない」

「ストレスをなくせば免疫が強くなる」

「深呼吸をすると免疫力が上がる」

どれも、いかにも身体によさそうな話です。

しかし、私は以前から「免疫力を高める」という言葉に、少し引っかかるものを感じています。

そもそも免疫とは、高ければ高いほどよいものなのでしょうか。

ウイルスに感染しない身体が、健康な身体なのでしょうか。

今回は、ウイルスの基本的な仕組みを確認しながら、免疫と自律神経、そして身体が本来持っている調整能力について考えてみたいと思います。

なお、この記事のウイルスの仕組みに関する部分は、治療家の都先生から学んだ内容をもとに、私なりに整理して書いています。

ウイルスは、生きているのか?

まず、ウイルスとは何でしょう。

細菌もウイルスも感染症の原因になりますが、その構造は大きく異なります。

細菌は、一つの細胞として生命活動を営み、自分自身で増殖することができます。

ところが、ウイルスには細胞がありません。

基本的には、DNAまたはRNAという遺伝情報と、それを包むタンパク質などからできた小さな粒子です。

ウイルスは自分で栄養を取り込み、エネルギーを作り出すことも、自分自身の力だけで増えることもできません。

増殖するには、ほかの生物の細胞に入り込み、その細胞が持つ仕組みを利用する必要があります。

このような特徴から、ウイルスは生物と非生物の境界に位置する存在と考えられています。

私たちは普段、「ウイルスが生きている」「ウイルスを殺す」と表現します。

日常会話としては、それでも問題ありません。

ただ、もう少し正確に考えるなら、重要なのはウイルスが生きているか死んでいるかではなく、感染する能力を保っているかどうかです。

ウイルスが感染能力を失うことを「不活化」といいます。

例えば、新型コロナウイルスの原因となるSARS-CoV-2は、表面にエンベロープと呼ばれる脂質の膜を持っています。

この膜には、細胞への侵入に関係するスパイクタンパク質などが存在しています。

アルコールなどによって膜やタンパク質の構造が損なわれると、ウイルスは感染能力を失います。

一方、ノロウイルスのようにエンベロープを持たないウイルスは、アルコールが効きにくい性質があります。

つまり、ウイルスによって有効な対策は異なるのです。

だからこそ、単に「除菌」「殺菌」という言葉だけで判断するのではなく、何に対して、どのような作用があるのかを理解することが大切になります。

症状がないから、感染していないとは限らない

ウイルス感染について、もう一つ知っておきたいことがあります。

それは、感染していることと、症状が現れていることは同じではないということです。

ウイルスが細胞に侵入すると、その細胞の仕組みを利用して、新しいウイルスを作り始めます。

細胞に侵入してから、新たな感染性ウイルス粒子が細胞内で確認できるようになるまでの期間を、ウイルス学では「暗黒期(エクリプス期)」と呼びます。

一方、感染してから症状が現れるまでの期間は「潜伏期間」です。

この二つは異なります。

人の身体では、ウイルスの増殖と、それに対する免疫反応が複雑に進んでいます。

そのため、症状が出る前から他人に感染させる場合もあれば、最後まで症状がほとんど現れない場合もあります。

新型コロナウイルスでは、無症状の人や発症前の人からも感染が起こることが分かっています。

また、ウイルスを含む粒子は、咳やくしゃみだけでなく、普段の呼吸や会話でも空気中に放出されます。

そのため、感染対策では手洗いだけでなく、換気や空気清浄、必要な場面での適切なマスクの使用なども重要になります。

ここで大切なのは、感染を防ぐための対策と、感染したときに働く身体の仕組みは、分けて考える必要があるということです。

免疫力は、高ければ高いほどいいのか?

さて、ここからが今回の本題です。

健康について調べていると、「免疫力を高めましょう」という言葉をよく見かけます。

しかし、免疫は単純に高い、低いという一つの数値で表せるものではありません。

人間の免疫には、大きく分けて二つの仕組みがあります。

一つは、自然免疫。

皮膚や粘膜などの防御機構に加えて、体内に侵入した異物や病原体に比較的素早く反応する仕組みです。

もう一つは、獲得免疫。

特定の病原体に対応する抗体やT細胞などが働き、過去に出会った病原体に対する免疫記憶も形成されます。

この二つが連携しながら、私たちの身体を守っています。

ここで、少し考えてみてください。

もし免疫が、常に強く働き続けていたらどうなるでしょうか。

実は、それも困ったことになるのです。

免疫反応は、本来、身体を守るためのものです。

ところが、その反応が過剰になったり、必要がなくなっても続いたりすると、かえって自分自身の組織を傷つけることがあります。

アレルギーや自己免疫疾患などは、免疫の働きが適切に調節されないことで生じる問題の例です。

炎症も同じです。

炎症は、単に身体に悪い反応ではありません。

感染や損傷に対応するために必要な働きでもあります。

問題になるのは、その反応が過剰になったり、長引いたりすることです。

つまり、免疫にとって重要なのは、いつも強く働くことではありません。

必要なときに働き、必要がなくなれば、きちんと収束すること。

私は、この調節する働きこそが、健康を考えるうえで大切なのだと思います。

自律神経と免疫は、別々に働いているわけではない

ここで登場するのが、自律神経です。

自律神経は、心拍、血圧、呼吸、消化など、私たちが意識しなくても続いている身体の働きを調節しています。

そして、神経系と免疫系は、それぞれ独立して働いているわけではありません。

例えば、身体が感染を察知すると、免疫細胞からサイトカインと呼ばれる情報伝達物質が放出されます。

その情報は神経系にも伝わり、発熱や倦怠感、眠気、食欲の変化などに関係します。

反対に、神経系からの信号やホルモンも、免疫細胞の働きや炎症反応に影響します。

つまり、免疫系と神経系は、互いに情報をやり取りしているのです。

交感神経は、活動するときや危険に対応するときに働きやすくなる神経です。

副交感神経は、消化や休息などの働きに深く関わっています。

ただし、交感神経が悪者で、副交感神経が善玉というわけではありません。

危険が迫っているときには、心拍数を上げ、筋肉に血液を送り、素早く行動できるようにする必要があります。

それは身体を守るための正常な反応です。

一方で、危険が去ったあとには、活動状態から休息状態へと移っていく必要があります。

免疫も、自律神経も、どちらか一方を強くすればよいのではなく、状況に応じて働き方を変えています。

ここには、身体に共通する一つの特徴があります。

健康な身体とは、変化しない身体ではなく、変化に対応し、そこから戻ることができる身体なのではないか。

私は日頃の臨床でも、この「戻る」という働きを大切にしています。

この考え方については、【自律神経と回復力】シリーズの最終回「戻るということ」で詳しく書いています。

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呼吸を深くすれば、免疫力は上がる?

呼吸についても考えてみましょう。

「深呼吸は健康によい」と、よく言われます。

確かに、呼吸の速さや深さは、自律神経活動や心理状態と関係しています。

ゆっくりとした呼吸によって、緊張が和らいだり、心拍の変動に変化が現れたりすることもあります。

ただし、深く呼吸すれば免疫力が上がる、ウイルスに感染しにくくなる、感染症の重症化を防げる、といったことが確立しているわけではありません。

私は、ここを混同しないことが大切だと思っています。

そもそも、呼吸は深ければ深いほどよいものでもありません。

呼吸は、そのときの身体の活動や代謝に合わせて、自然に調節されています。

眠っているとき、歩いているとき、走っているときでは、必要な呼吸の状態は違います。

ところが、私が日頃、患者さんの身体に触れていると、ご本人が気づかないうちに、首や肩、胸の周りに強い緊張を残している方がいらっしゃいます。

このような状態では、胸郭の動きが制限され、呼吸にも余計な努力が必要になる場合があります。

そこで「もっと深く吸いましょう」と指導すると、かえって肩や首に力が入ってしまうこともあります。

ですから、私は呼吸の深さを無理に変えようとするより、自然に呼吸できる身体の状態を考えることを大切にしています。

呼吸を整えることは、免疫を直接強化するための特別な方法というよりも、日常の緊張や疲労と向き合うための一つの入り口として捉える方がよいのではないでしょうか。

心の状態は、免疫に影響するのか?

もう一つ、見逃せないのが感情と免疫の関係です。

私たちは、緊張すると心臓がドキドキしたり、お腹が痛くなったり、呼吸が浅くなったりします。

逆に、安心できる場所でゆっくり過ごしたり、気の合う人と笑い合ったりすると、身体の緊張が和らぐことがあります。

心の状態が、身体の働きと深く関係していることは、誰でも日常の中で感じているのではないでしょうか。

この関係を研究している分野に「心理神経免疫学」があります。

心理状態、神経系、内分泌系、免疫系の相互作用を調べる学問です。

例えば、300以上の研究を統合したメタ解析では、ストレスの種類や持続期間によって、免疫機能にさまざまな変化が現れることが報告されています。

特に、慢性的なストレスは、一部の免疫機能の低下や炎症調節の変化と関連しています。

また、笑いとNK細胞(ナチュラルキラー細胞)の活動との関係を調べた研究もあります。

例えば大阪大学のグループは、健康な男性21名に、お笑いの映像と、感情を動かさない映像を別の日に見てもらい、比べました。

その結果、お笑いの映像を見たあとにNK細胞の活性が上がったと報告しています。

ただし、小規模な研究で、感染症の予防効果まで調べたものではありません。

ですから、笑うことで感染症を予防できるとか、気持ちを明るくすれば病気にならないという話ではありません。

何でも前向きに考えればよい、ということでもないのです。

つらいときに、無理に笑う必要はありません。

不安なときに、不安を感じてはいけないわけでもありません。

感情を無理に変えようとすることが、かえって負担になる場合もあるでしょう。

私は、健康のために笑おうと頑張るよりも、自然に笑える時間があることの方が大切だと思います。

楽しいことがあれば笑い、悲しいことがあれば悲しむ。

疲れたら休み、何かに夢中になれるときには夢中になる。

そうした自然な心の動きを、無理に押さえつけないことです。

以前、「爆笑は、呼吸法を超える!?」という記事でも書きましたが、笑ったあとに、いつの間にか身体の力が抜け、呼吸が楽になっていることがあります。

そのとき私たちは、呼吸を整えようとも、免疫力を高めようともしていません。

ただ笑っていただけです。

身体というものは、意識して変えようとしなくても、さまざまな変化を起こしているのです。

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では、日頃から何を大切にすればよいのか

ここまでの話を整理すると、感染症に備えるには、二つの視点が必要になります。

一つは、病原体に接触する機会や感染のリスクを減らすこと。

もう一つは、身体が本来持っている生理機能を、良好な状態に保つことです。

前者では、手洗い、換気、状況に、応じたマスクなど、感染症に対して効果が確認されている対策が役立ちます。

後者では、次のような日常の積み重ねが大切になります。

  • 睡眠:十分な休息の機会を確保し、身体の回復や免疫の正常な働きを支える。
  • 食事:特定の食品に頼るのではなく、必要な栄養を無理なく取る。
  • 運動:体力に合わせて身体を動かし、長時間の座りっぱなしを避ける。
  • 呼吸:無理に深く吸おうとせず、楽に呼吸できる姿勢や身体の状態を大切にする。
  • 休息と感情:緊張し続ける時間ばかりにならないように、休む時間や心が落ち着く時間も持つ。

どれも、特別なことではありません。

ただし、生活習慣を整えることだけで感染症を防げるわけではありませんし、体調が悪くなったことを、生活の仕方や気持ちの問題に結びつける必要もありません。

感染症には病原体の性質や曝露状況など、本人の努力だけでは左右できない要因も数多くあります。

大切なのは、できる対策を取りながら、日々の生活を必要以上に窮屈なものにしないことだと思います。

身体を整えるとは、強くすることではない

感染しないこと。

病気にならないこと。

疲れないこと。

私たちは、ついそのような状態を健康だと考えがちです。

もちろん、病気にならず、元気に過ごせることはありがたいことです。

しかし、人間は生きている限り、さまざまな環境の変化にさらされています。

暑ければ汗をかき、寒ければ身体を震わせる。

運動すれば心拍数が上がり、休息すれば落ち着いていく。

感染すれば免疫系が反応し、必要な防御や修復の働きが始まる。

身体は、いつも一定の状態にとどまっているわけではありません。

そのときどきの状況に応じて、自分自身の働きを変え続けています。

もちろん、その調節がうまくいかないこともあります。

身体の調整能力だけでは対応できず、医療の助けが必要になる場合もあります。

高い熱が続く、息苦しい、水分がとれない、ぐったりしているといったときは、我慢せず早めに医療機関を受診してください。

それでも、日々の健康を考えるうえで、私はこの「調節する力」にもっと目を向けてもよいのではないかと思っています。

免疫を強くする。

自律神経をコントロールする。

呼吸を深くする。

何かをもっと強く、もっとよくしようとすることばかりが、健康への道ではないのかもしれません。

必要なときには働き、働き終えたら休む。

緊張するときには緊張し、その必要がなくなれば力を抜く。

活動と休息を繰り返しながら、日々の変化に応じて自分自身を調節していく。

身体を整えるとは、常に強い状態をつくることではなく、変化に柔軟に対応できる状態を大切にすること。

私は、そのように考えています。

そして、もう一つ。

健康になるために、いつも健康のことを考え続ける必要はないと思うのです。

健康は、それ自体が人生の最終目的ではありません。

何かを楽しみ、大切な人と過ごし、仕事に取り組み、ときには何もせずにゆっくり過ごす。

そうした毎日の営みを支えてくれるものが、健康なのではないでしょうか。

健康のために笑うのではなく、自然に笑える日々を過ごす。

健康のために休むのではなく、疲れたら安心して休める。

身体を整えるということも、突き詰めれば、そんな自然な暮らし方につながっていくのだと思います。

のむら整骨院 院長 野村晃生


参考資料

“病院医学”では紐解けない
不調の正体を調律する『特別な整骨院』

大阪市中央区【北浜・堺筋本町】
完全予約制|受付 10:00〜17:00(最終受付)
お電話は18:00まで(留守電OK・折り返します)

院長経歴

検査で「異常なし」でも、つらさは本物
自律神経の乱れを

体の反応から読み解く整骨院

院長 野村晃生(のむら あきお)
柔道整復師/臨床歴20年以上

自律神経のはたらきを軸に、
身体が安心できる『整える施術』を大切にしています。