自律神経は「バランス」だけでは語れない――身体の変化に反応する力

あなたの体は、
変化に応えていますか?

自律神経を整えるというと、交感神経の働きを抑えて、副交感神経を高めることだと思っていませんか。

もちろん、緊張が続いている身体をゆるめることは大切です。

けれども、自律神経の本来の役割は、身体を静かにさせることだけではありません。

朝、布団から起き上がったとき。
食事をしたとき。
寒い外へ出たとき。
急な物音に驚いたとき。
私たちの身体の中では、その変化に合わせた調節が、気づかないうちに始まっています。

リラックスしていても、必要な場面で必要な反応ができなければ、それは本当に整っていると言えるのでしょうか。

今回は、ある日本の研究をきっかけに、自律神経を「バランス」ではなく「変化に反応する力」という視点から考えてみたいと思います。

平均値では見えなかったもの

2018年、東京慈恵会医科大学などの研究グループが、2型糖尿病の方を対象にした研究を発表しました。

入院中の94人に、血糖値を連続して測る機器を3日間つけてもらい、血糖の動きと、心臓の自律神経の働きとの関係を調べたものです。

心臓の自律神経の働きを見る指標として使われたのが、「圧受容器反射感受性(BRS)」です。
血圧が変化したときに、心拍がどれだけ敏感に応えて調節できるかを表す数値で、低いほど反応が鈍いことを示します。

結果は、意外なものでした。

HbA1cや平均血糖値、空腹時血糖値といった「血糖の高さ」を表す数値は、BRSとはっきりした関連がありませんでした。
一方で、1日の中で血糖が大きく上下する人ほど、BRSが低い傾向がありました。

年齢や性別、高血圧、心拍数、血管の硬さ、平均血糖値などの影響を差し引いても、この関係は残りました。

つまり、平均すれば同じ血糖値でも、身体の中で起きていることは同じとは限らない、ということです。

ただし、この研究は「予備的な報告」と位置づけられています。
ある時点での関連を見たもので、血糖の揺れが原因でBRSが下がったと証明したわけではありません。

また、対象は糖尿病で入院している方であり、そのまますべての人に当てはまるとは言えません。

それでも私は、この研究が示した視点そのものに、大きな意味があると考えています。

血圧が変わった一瞬に、身体がしていること

BRSが表しているのは、「圧受容器反射」という仕組みの働きです。

首の付け根にある頸動脈や、心臓から出たばかりの大動脈の壁には、血管の伸び具合を感じ取るセンサーがあります。
血圧が上がって血管の壁が引き伸ばされると、このセンサーがそれを感知し、情報を脳幹へ送ります。

脳幹はその情報をまとめ、交感神経の働きを弱め、心臓へ向かう迷走神経の働きを強めます。
すると心拍がゆっくりになり、血圧は元へ戻る方向へ向かいます。

血圧が下がったときは、その逆が起こります。

立ち上がった瞬間に目の前が暗くならずにすむのも、この反射が一拍ごとに働いているからです。

この流れを分けてみると、身体は三つのことを同時に行っています。

  1. 変化を感知する(血管の壁のセンサー)
  2. 情報をまとめる(脳幹)
  3. 適切に応える(心臓・血管・自律神経)

そして、応えた結果がまた感知され、調節が続いていきます。

ここで大切なのは、BRSが下がったとき、問題は自律神経だけにあるとは限らないということです。

血管が硬くなれば、センサーは変化を感じ取りにくくなります。
情報の伝わり方や、脳幹での処理が変われば、応え方も変わります。

実際、先ほどの研究でも、BRSは血管の硬さの指標や年齢と関連していました。

「交感神経が高いから」「副交感神経が低いから」という説明だけでは、この感知から応答までのつながりが見えてこないのです。

揺れが調節を鈍らせるのか、調節の鈍りが揺れを生むのか

では、血糖の揺れと自律神経の反応の鈍さは、どちらが先なのでしょうか。

研究者たちは、血糖が大きく上下することで酸化ストレスが増え、神経や血管の内側の働きが損なわれる可能性を挙げています。
揺れが、調節の仕組みを少しずつ傷めていくという考え方です。

けれども、逆の方向も考えられます。

自律神経は、膵臓からのインスリンの分泌や、肝臓から血液へ糖を出す働き、胃腸の動きにも関わっています。
調節の仕組みそのものが鈍くなれば、血糖を一定の範囲に保つことも難しくなるはずです。

血糖を調節する身体の働きについては、「血糖値は、食べたものだけで決まらない」でも書いています。

つまり、血糖の揺れが自律神経に影響し、自律神経の鈍りがまた血糖を揺らす。
そうした循環が起きている可能性があります。

ここは、まだはっきりとは分かっていない部分です。

その後、2025年には、16の研究、計1,814人のデータをまとめた報告が出ました。

糖尿病の方では、血糖の揺れが大きいほど心臓の自律神経の障害と結びつきやすいという方向は、ほかの研究でも確かめられつつあります。

それでも、どちらが原因なのかは、まだはっきりと切り分けられていません。

私は、身体の働きを「Aが原因でBが起こる」という一本の矢印で捉えるよりも、互いに影響し合う輪として捉えたほうが、実際の身体に近いと考えています。

「良くなった」は、何で測るのか

この問いを考えるうえで、興味深い研究があります。

2003年にフィンランドで行われた研究では、2型糖尿病の男性50人を二つのグループに分け、一方には12か月間、持久力の運動と筋力トレーニングをそれぞれ週2回続けてもらいました。

運動を続けたグループでは、BRSが改善しました。
運動をしなかったグループでは、むしろ低下していました。
同時に、運動したグループではHbA1cも下がっていました。

ところが、24時間の心拍変動(HRV)の指標には、はっきりした変化が見られませんでした。

HRVは、自律神経の状態を表す数値としてよく使われています。
もしHRVだけを見ていたら、「運動しても自律神経は変わらなかった」という結論になっていたかもしれません。

HRVは心拍そのものの揺らぎを見ています。
BRSは、血圧の変化に心拍がどう応えるかを見ています。

同じ心臓の自律神経を見ていても、測っているものが違うのです。

自律神経が「良くなった」かどうかを、私たちは何によって判断しているのでしょうか。

もう一つ、この研究では血糖とBRSが同時に良くなっています。
血糖が安定したから反射が戻ったのか、反射が戻ったから血糖が安定したのか。

ここでも、どちらが先かは分かりません。

私には、身体全体が整うとき、両方がそろって動き出すようにみえます。

私が臨床でみている「反応する力」

研究で使われるBRSを、整骨院で測ることはできません。

けれども、施術の場で身体に向き合っていると、「この方は変化に応える力が落ちている」と感じる場面があります。

一つは、季節の変わり目の崩れ方です。

気温や気圧が変わる時期に、多くの人は多少なりとも体調を崩します。
それ自体は自然なことです。

ただ、崩れたまま戻らない方や、毎年同じ時期に同じ崩れ方を繰り返す方は、環境の変化を感じ取り、それに合わせて身体を切り替える力が鈍っているように私にはみえます。

崩れたあとに戻る力については、「戻るということ【自律神経と回復力】第5回」で書いています。

もう一つは、検査への反応の遅さです。

私は施術の中で、身体と対話するような独自の「検査」を行い、身体から返ってくる答えを確かめながら進めていきます。
調節する力が保たれている方は、問いかけに対する答えがすぐに返ってきます。

反応する力が鈍っている方は、答えが返ってくるまでに時間がかかったり、その答えがはっきりしなかったりします。

この検査については、「“本当の原因”は脳が知っている。「生体反応検査」で読み解く身体の真実!」で詳しくお伝えしています。

そして、私が特に大切にしているのが、脳脊髄液の循環の整い具合です。

脳脊髄液は、脳と脊髄を包み、その周りを巡っている液体です。
私は、この巡りがどれだけ整っているかが、身体が変化を感じ取り、応えるための土台になっていると捉えています。

巡りが整ってくると、検査への反応も、季節の変化への対応も、少しずつ変わってくることを臨床で感じています。

頭蓋骨と脳脊髄液の巡りについては、「頭蓋骨の微細な動きが、脳の休息と活力を左右する」をご覧ください。

また、糖尿病の方も、当院では診ています。

HbA1cの高い方が、身体全体を整えていくなかで数値が下がっていった経験は、これまでの臨床で何度もありました。
血糖そのものに直接働きかけているわけではありません。

身体の調節する力が戻ってくると、その一つの表れとして血糖も落ち着いてくる。
私はそう考えています。

先ほどの研究が示した「血糖の揺れと、反射の鈍さが結びついている」という事実は、私が臨床で感じてきたこととも重なります。

まとめ――「整える」という言葉を、もう一度

自律神経を整えるとは、ただ静かな身体をつくることではありません。

働くときには働き、休むときには休む。
立ち上がれば血圧を支え、食事をすれば血糖を保ち、季節が変われば身体を切り替える。
変化を感じ取り、その場に合った応え方ができること。

私は、それが「整っている」ということだと考えています。

血糖の揺れと心臓の反射の研究は、自律神経を交感神経と副交感神経の強弱だけで見るのではなく、感知から応答までをつなぐ身体全体の調節の仕組みとしてみる必要があることを教えてくれます。

そして、その仕組みは一か所だけで成り立っているのではありません。
神経も、血管も、代謝も、互いに影響し合いながら働いています。

体はひとつ、すべてはつながっています。

季節の変わり目に崩れやすい方、休んでもなかなか回復しない方は、一度ご相談ください。
身体が変化にどう応えているかを確かめるところから始めます。

初めての方は「初診の流れ」をご覧ください。

のむら整骨院 院長 野村晃生

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参考文献

  • Matsutani D, Sakamoto M, Iuchi H, Minato S, Suzuki H, Kayama Y, Takeda N, Horiuchi R, Utsunomiya K. Glycemic variability in continuous glucose monitoring is inversely associated with baroreflex sensitivity in type 2 diabetes: a preliminary report. Cardiovascular Diabetology. 2018;17:36. https://doi.org/10.1186/s12933-018-0683-2
  • Association between continuous glucose monitoring metrics and cardiovascular autonomic neuropathy in diabetic patients: a systematic review. Reviews in Endocrine and Metabolic Disorders. 2025;26(6):973-987. https://doi.org/10.1007/s11154-025-09981-6
  • Loimaala A, Huikuri HV, Kööbi T, Rinne M, Nenonen A, Vuori I. Exercise training improves baroreflex sensitivity in type 2 diabetes. Diabetes. 2003;52(7):1837-1842. https://doi.org/10.2337/diabetes.52.7.1837

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院長 野村晃生(のむら あきお)
柔道整復師/臨床歴20年以上

自律神経のはたらきを軸に、
身体が安心できる『整える施術』を大切にしています。