同じ夜更かしでも、女性の体には「もっと遅い夜」になる

その夜更かし、
体には何時?

仕事を終え、家のことを済ませて、ようやく一人になれるのは夜も遅くなってから。
そんな毎日を送っている方は少なくないと思います。

深夜の時間は、怠けているのではありません。
やっと自分に戻れる、大切な時間なのだと思います。

ただ、同じ「午前2時」でも、体にとっての時刻は人によって違うとしたら、どうでしょうか。

今回ご紹介するのは、眠る時刻と心の状態の関係に、男女で違いが見られたという日本の研究です。
数字を丁寧に追っていくと、「夜更かしは体に悪い」という一般的な話とは、少し違う景色が見えてきます。

研究は何を調べ、何がわかったのか

東京医科大学睡眠学講座の守田優子氏らは、19〜25歳の日本人2,502人(男性1,144人、女性1,358人)にWebアンケートを行いました。
寝る時刻と起きる時刻、寝つくまでの時間、寝つけない・途中で目が覚めるといった不眠の症状、日中の眠気を尋ね、あわせて抑うつの度合いを質問票で調べています。

一般に、抑うつは女性に多いとされています。
ところがこの研究では、女性に多いという差がはっきり出たのは、寝る時刻が後ろにずれている人たちだけでした。

ここでいう「寝る時刻の遅れ」とは、睡眠の真ん中の時刻が明け方4時45分より遅いことを目安にしています。
たとえば午前2時半に寝て朝7時に起きると、真ん中がちょうど4時45分です。

抑うつと関連していた睡眠の問題を、男女で並べると次のようになります。

睡眠の問題男性女性
寝つけない(入眠困難)3.504.37
日中の眠気2.392.13
寝る時刻の遅れ関連なし1.75

数字は「オッズ比」という、関連の強さを表す指標です。
「4.37倍うつになる」という意味ではありません。
1より大きいほど、その睡眠の問題がある人に抑うつ症状が多く見られた、と読んでください。

大切な前提が二つあります。

一つは、これは一時点のアンケートによる研究で、「寝る時刻が遅いから心が沈んだ」という因果までは示していないことです。
心が沈んでいるから寝る時刻が遅くなる、という逆の流れも考えられます。
もう一つは、抑うつは医師の診断ではなく、本人が答える質問票で測っていることです。

また対象は20歳前後に限られます。
ただ、その後に韓国で19〜80歳の5,550人を調べた研究でも、夜型は女性では抑うつと関連し、男性では関連しないという、よく似た結果が出ています。
年代別に見ても、41〜59歳を含むすべての年代の女性で、同じ傾向が見られました。
若い世代だけの話ではないと考えられます。

なぜ女性では「寝る時刻」が効いてくるのか

研究者たちは、その理由を女性の体内時計の性質に求めています。
ただしこれは測定した結果ではなく、結果から導いた仮説です。

私たちの体内時計は、平均すると24時間よりわずかに長い周期で回っていて、毎朝の光を浴びることで24時間に合わせ直されています。
そしてこの周期は、女性のほうが男性より平均でおよそ6分短いと報告されています。

周期が短いということは、体の中の一日が、少し早めに進むということです。
眠気を運ぶホルモンや体温のリズムも、同じ生活をしていても、女性のほうがやや早い時刻に「夜」へ向かいやすいと考えられています。

ここからが、私が大切だと考えている点です。

同じ午前2時に眠ったとしても、時計が早めに進む体にとって、その時刻はもう「もっと深い夜」に入っています。

時計の上では同じ夜更かしでも、体が本来眠りたかった時刻と、実際に眠る時刻との差が、より大きく開いている。
いわば、毎晩小さな時差ぼけを抱えたまま眠っているような状態です。

そう考えると、この研究の結果は「女性は夜更かしに弱い」という話ではありません。
体の時計と生活の時計のずれが、女性ではより大きく表に出やすい、ということなのだと私は捉えています。

関連する話として、同じ出来事でも時間帯によって体の受け止め方が変わることは、「同じストレスでも、朝と夜では身体の反応が違う?」でも書きました。

いちばん強かったのは「寝つけないこと」

もう一度、表を見てください。
男女ともに、抑うつともっとも強く関連していたのは、寝る時刻の遅れでも日中の眠気でもなく、「寝つけないこと」でした。

睡眠の悩みというと、多くの方はまず「何時間眠れたか」を気にされます。
けれども心の状態と強く結びついていたのは、眠りの長さよりも、眠りに入れるかどうかだったのです。

眠りの長さだけでは回復は測れない、という話は「眠った時間だけでは、回復は分からない」で詳しく書きました。
今回の研究は、その中でも「入口」の大切さを示しているように思います。

では、寝つけないとき、体では何が起きているのでしょうか。

私は、寝つけない夜を、体がまだ昼の警戒を解いていないサインだと捉えています。

布団に入っても、首や胸、お腹の奥に力が残り、呼吸は浅く、頭は次のことを考え続けている。
体はまだ「何かに備えて」立っている状態です。
不眠症のページでは、これを「戦場で武器を持ったまま立っている状態」と表現しました。

寝つけなさと日中の不調のつながりは、『眠れない夜は、昼間にも続いている』で詳しく書いています。

そう考えると、「眠れないから心が沈むのか、心が沈んでいるから眠れないのか」という問いの見え方も変わります。
どちらが先というより、警戒を解けない体という一つの状態が、夜には寝つけなさとして、昼には心の重さとして現れている。
私はそう考えています。

二つは、同じ「ずれ」の表と裏

寝る時刻の遅れと、寝つけないこと。
研究の上では別々の項目ですが、私には同じ一つのことに見えます。

それは、体が今いる時刻と、生活している時刻とのずれです。

寝る時刻の遅れは、「時刻のずれ」です。
体の時計はもう夜の深いところにいるのに、生活の時計はまだ起きている。

寝つけないことは、「状態のずれ」です。
時計の上では夜なのに、体の状態はまだ昼のまま、警戒を解いていない。

この二つは、互いに強め合います。
遅い時刻まで頭を働かせていると、体は警戒から降りにくくなります。
警戒から降りられないと、眠りに入る時刻はさらに後ろへずれていきます。

そして、体内時計が早めに進む女性の体では、一つ目の「時刻のずれ」が最初から大きく開きやすい。
研究で女性にだけ寝る時刻の遅れが関連として現れたのは、この入口の差が表に出たものではないかと、私は考えています。

実際に施術の場で、眠りに悩む方の体を確かめると、呼吸が浅く、吐く息が短く、首や胸の奥に力が残っていることがよくあります。
入眠困難と中途覚醒に悩まれていた50代男性の改善実例でも、出発点はそこでした。
眠りの問題は、夜の問題である前に、日中から続いている体の構えの問題でもあるのです。

今日からできること

ここまで読んで、「では早く寝ればいいのか」と思われたかもしれません。

私がお伝えしたいのは、少し違うことです。

夜の一人の時間を、無理に削る必要はありません。
大切なのは、二つのずれを少しずつ小さくしていくことです。

一つ目の「時刻のずれ」には、寝る時刻より先に、起きる時刻をそろえることをお勧めします。
体内時計は朝の光で合わせ直されます。
休日も含めて起きる時刻をそろえ、起きたらまず窓辺で外の光を浴びる。
体の時計の基準点が定まると、夜の眠気が来る時刻も、少しずつ前へ戻ってきます。

二つ目の「状態のずれ」には、眠る前に、体を昼の警戒から降ろしてあげる時間をつくります。
ポイントは、吸うことより吐くことです。

息を長く吐くと、体は「もう備えなくてよい」という方向へ切り替わりやすくなります。
具体的な方法は「体にかける催眠術!?一瞬で眠りを誘う“3秒・5秒の呼吸”の方法」と「【寝る前3分】白隠禅師の「内観」と「軟酥」で、脳と体をリセットする」で紹介しています。

「眠ろう」と頑張るのではなく、体が自分から眠りへ降りていける条件を整える。
それが、遠回りに見えて、いちばん確かな近道だと私は考えています。

まとめ

同じ夜更かしでも、体内時計が少し早く進む女性の体にとっては、「もっと遅い夜」になっているのかもしれません。

そして男女を問わず、心の状態ともっとも強く結びついていたのは、眠りの長さではなく「寝つけないこと」でした。

寝る時刻の遅れと寝つけなさは、どちらも、体が今いる時刻と生活している時刻とのずれです。
だからこそ、無理に早く寝ることより、朝の光で時計をそろえ、夜に警戒を解ける体を取り戻すことが大切だと、私は考えています。

夜遅くまで頑張る毎日の中で、寝つけない夜が続いている方は、一度ご相談ください。
体がどこで警戒を解けずにいるのかを確かめるところから始めます。

初めての方は「初診の流れ」をご覧ください。

のむら整骨院 院長 野村晃生

次のような場合は、まず医療機関での検査をお勧めします

  • 眠っているときの大きないびきや、呼吸が止まっていると指摘されたことがある
  • 動悸、汗、体重の変化が続いている
  • 死にたい気持ちがある
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参考文献

  • Morita Y, Sasai-Sakuma T, Asaoka S, Inoue Y. The impact of a delayed sleep-wake schedule on depression is greater in women — A web-based cross-sectional study in Japanese young adults. Chronobiology International. 2015;32(7):952-958. https://doi.org/10.3109/07420528.2015.1055756
  • Kim KM, Han SM, Heo K, Kim WJ, Chu MK. Sex differences in the association between chronotype and risk of depression. Scientific Reports. 2020;10:18512. https://doi.org/10.1038/s41598-020-75724-z
  • Futenma K, Takaesu Y, Komada Y, Shimura A, Okajima I, Matsui K, Tanioka K, Inoue Y. Delayed sleep–wake phase disorder and its related sleep behaviors in the young generation. Frontiers in Psychiatry. 2023;14:1174719. https://doi.org/10.3389/fpsyt.2023.1174719

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院長 野村晃生(のむら あきお)
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